1-8
「ジオバール様、ナターシャを連れてまいりました」
「ありがとう、セシリア」
駆け寄ってきたセシリアに、馬から降りて礼を言うジオバール。
僅かな沈黙の間、二人は互いを瞳に映し、微笑み合った。
――今世でもできているようですわね、まったく、はた迷惑なカップルですこと……。
少し離れた場所で立ち止まり、二人を眺めていたナターシャは内心ため息をついた。
通達の書面を持ってくるだけなら誰にでもできる。
それなのに、わざわざ聖騎士団長じきじきにお越しとは、セシリアに会いに来ているとしか思えない。今までも、ジオバールはなにかにつけて修道院を訪れることがあった。その時にナターシャは彼の顔を見て、ジオフォードだと気づいたのだ。
しかし、世間知らずの聖女たちは、特に二人の関係を疑うでもなく、ジオバールの行動を不自然に思う者もいないようだった。
「いいえ、お待たせして申し訳ありません」
「セシリアが謝ることはない、悪いのはすべて……あいつだからな」
ジオバールはセシリアに対する微笑みから一転、厳しい視線をナターシャに向けた。
そして数歩前進すると、ナターシャの目の前で足を止めた。
「ナターシャ、貴様には国中がガッカリしている。輝かしく修道院入りしたにも関わらず、その後の成績は散々……大聖女は愚か、聖女にすらなれないとは、陛下も大変お怒りだ」
――本当かしら? 右も左もわからないテレス様を利用しているのではなくて?
思いつめた表情で隠すナターシャの本心。
少年王、テレスもまた、前世でナターシャと出会っていた。
前世の名はステレー……彼は当時も少年王であり、ナターシャに最後の審判を下した人物であった。
しかし、ナターシャは彼を恨んだことはない。
テレスの置かれた状況を把握していたからだ。それはおそらく、彼がテレスとして転生した今も同じ。
ナターシャがそんな思いを巡らせているうちに、ジオバールは胸ポケットから封筒を取り出す。
そしてその中に入った書面を手にした。
「通常、聖女見習いが聖女になれなければ、実家に帰すだけだが……貴様は国の期待を裏切った、罪深き者。ゆえに罰を与えねばならない。ナターシャ・リアン・ブランビスク……貴様を、ティルバイトに追放する」
ジオバールはそう言って、白い書面をナターシャの眼前に突きつけた。
ジオバールの言葉に、周りにいた野次馬聖女たちが、一気にざわめき出す。
「ティルバイトって、あの……?」
「凶暴な魔獣が住んでるって噂の?」
「魔術団長がかなりやばいらしいよ……」
あちらこちらで飛び交う声を背に、ナターシャは目の前に提示された白い紙を見つめていた。
確かに、そこには自分の名前と、その下に追放、ティルバイトの文字が続いている。
「我が国のルールで、各地に聖女を配置すると決まっている。しかしながらロッドベリル魔術団が収める領地、ティルバイト……ここだけは、未だ固定の聖女がいない。配置した聖女すべてがあそこに居続けるくらいなら、聖女を辞めると泣きついてくるからだ。ゆえに、国中の聖女たちの持ち回りが続いている。貴様がティルバイトの固定の聖女となれば、その問題は解決されるだろう」
黙ってジオバールの話を聞いていたナターシャだったが、明らかな矛盾を見つけたので指摘することにする。




