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「アリストが……」
「……不快になりましたか? それとも軽蔑を?」
躊躇いがちに呟くナターシャに、パトリックが鋭い質問をぶつけた。
やや面食らった様子のナターシャを、パトリックは真剣な眼差しで見つめる。
どんな理由があろうと、人殺しは人殺し……聖女になったばかりのナターシャには受け入れ難い事実かもしれない。
そう思ったパトリックは、ナターシャを試すような気持ちもあった。
僅かな沈黙の間に、ザザン……と波が押し寄せる。
それがすっと引いていく頃、ナターシャはふっと薄い笑みを浮かべた。
「そうですわね、実に不快で軽蔑すべき対象ですわ……ミカエリアス聖騎士団は」
ナターシャの回答に、パトリックの深くなりつつあった眉間の皺が、一気に浅くなりオレンジの瞳が開かれる。
前世、貴族であったジオフォードは、分不相応なほどプライドが高く、非常に欲深かった。
ジオバールに転生した今世でも、その性質は見事に受け継がれたようだ。
なんせ拡声器で勝利宣言をしたのは、ジオバール本人だったのだから。
ロッドベリルの功を横取りして、ミカエリアス聖騎士団の名を上げるだなんて、いかにもジオフォード……もとい、ジオバールがやりそうなことだとナターシャは思った。
同時に、それはアリストの決心を踏み躙る愚行であるとも。
「あんなに繊細なアリストが、大勢の人を殺めて平気なはずがありませんわ……」
切なげな表情で零すナターシャに、パトリックは救われたような気分になった。
聖女の中にも、アリストを理解してくれる者がいると知ったからだ。
パトリックはアリストに心酔しており、その戦闘スタイルや能力に大きな憧れを抱いている。だが、それが及ぼす影響……例えば人命を奪い去ることなど……自体が正義だとは思っていない。
だからこそ、アリストの優しさに甘える結果になったことを、深く反省し、同時に感謝もしているのだ。
「……団長は私たちがやる前に、やってくださったんですよ、自分が罪を負うために」
アリストは優しすぎる。それはパトリックを含め、ここで暮らすみんなが知っていることだった。
誰よりも繊細な心を犠牲にしてでも、仲間たちを守りたい使命感が勝る。
当時、戦場に立ったアリストが、一体どんな気持ちで巨大な魔力を解放したのか。
その気持ちを考えると、ナターシャは胸の奥がキュッと痛む。
今世では初めての感覚だ、じゃあ、前世では……?
そう考えた時、ナターシャはなにか思い出しそうになった。
前世で同じ感覚に見舞われたことがあったような、不思議な気持ちに囚われたのだ。
しかし――。




