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「海に面しているのではなく、ここもティルバイトの一部なんですよ」
「えっ……海も?」
「はい、ソリスティリア王国の、この辺りの海域は我がロッドベリル魔術団……アリスト団長の領地です」
なんと、この海までもが、アリストが所有する領地であった。
ソリスティリア王国は島国ではないので、周りのほとんどが他国に面している。
だが、南側の一部だけ海に面している箇所がある、それがここだったのだ。
修道院を出て、ティルバイトに向かっている時、ずいぶん南下しているなとナターシャは思っていたが、その通りだった。
ティルバイトはソリスティリア王国の最南端を、守るかのように佇んでいた。
ようやく位置関係を把握したナターシャは、なんと自分の望み通りのロケーションかと思った。
かつてナタリーが生きた国は、海に面していなかったため、その存在は架空に近かった。
噂に聞いたことがある、いつか見てみたいと思っていた海が、今目の前にある――
ナターシャは視界に収まりきらない広大なそれを、夢中で目に焼きつけた。
「わたくし、海って初めて見ましたわ」
「修道院は山手ですからね」
「もしや、昨夜の食事にタコらしきものが混じっていたのは……」
「ここで獲れたものですよ。食料は町に出て調達する時もあれば、ここの魚介類をいただくこともあります」
「なるほど……」
昨夜、アリストが振る舞ってくれた謎料理、そこに魚介類らしきものが多く見られた理由に、ナターシャは納得した。
作り物のように綺麗な海だが、よく見ると色鮮やかな魚が泳いでいるのがわかる。この浅瀬でもたくさん見えるくらいだ、奥に行けばさらに多くの生物が暮らしていることだろう。
それだけ資源が豊富なら、海産物に困ることはなさそうだ。
「それにしても綺麗な海ですわね」
ティルバイトの領地だからか、周りにはナターシャたち以外誰もいない。贅沢極まりないプライベートビーチである。
しかし、ここまで静かなことには、別の理由もあった。
「この海域はティルバイトに続いていると、よその国もわかっていますから、誰も近づこうとしないんですよ。だから静かで美しいんです」
ナターシャは海から目を離して、隣に立つパトリックを見た。
パトリックは振り向かず、海のずっと向こうを見ている。
「ティルバイトは、他国からも敬遠されているんですの?」
「敬遠というより恐怖です、ロッドベリル魔術団……もとい、団長に対する」
アリストを恐れているということは、国外にまでその強さが知られているのか。
だとしたら、どうやってそんな情報が流れたのか、誰かが他国で話したのか……ナターシャが考えていると、パトリックがその答えを口にする。
「ご存知ありませんか? サンタウォーリアの奇跡」
その文言に、ナターシャは動きを止めた。
ソリスティリア王国の民なら、誰もが知る言葉だったからだ。




