第6章、みんなの絆-1
それから約十分後、ナターシャはとある場所で立ち尽くしていた。
肩幅ほどに広げた足で仁王立ちし、目の前に広がる光景に仰天していた。
どこまでも続く地平線に、見渡す限り広がる透明度の高いブルーの海洋。
まるでサファイアの宝石を散りばめたような美しく広大な景色に、ナターシャは感激して瞳を震わせた。
「……こ、これは……」
「見ての通り、海ですよ」
パトリックの声とともに、ザザン……と穏やかなさざなみの音がナターシャの耳に届くが。
「さーかーなーー!!」
ムードを破壊する大きな声を上げながら、勢いよく走ってナターシャを横切るガネット。
そのまま正面の海に飛び込もうとする彼女を見て、パトリックが右手を上げた。
「コラ、ガネット!」
ガネットほどではないが、パトリックもやや声を張ると、彼女を指差した手をクンッと上に上げる。
するとガネットの身体がふわっと浮いて、弧を描くように空中を移動する。
連れ戻されるとわかったガネットは必死に手足をジタバタさせるが、その甲斐もなくパトリックの隣に下ろされてしまった。
よく見てみると薄い紫色の魔力がガネットの身体を包んでいたのがわかる。まるで魚釣りのように、簡単に釣られてしまったガネット。
真っ白な砂の上にペタンと座り込んだ彼女は、不満たっぷりの表情でパトリックを睨みつけた。
「なにすんのよ、パトリック! お兄様にでっかい魚獲って帰るんだから邪魔しないでよ!」
「海に入ってはいけません、中には危険な生物もいますし、なにより溺れたらどうするんですか。つい先日足を滑らせてチミチミ池にはまったところでしょう、あの時は私がたまたま通りかかったからよかったものの」
「あー! あー! わかりました、わかりましたよー!」
ガネットはパトリックの説教を終わらせるため、荒げる声を被せて答えた。
そんなガネットを見下ろしながら、パトリックはやれやれと小さなため息をつく。
「まったく……あなたは砂浜でカニでも捕まえときなさい」
「……フンだ!」
ガネットは下唇をキュッと噛みしめると、プイッとそっぽを向いて立ち上がる。
そして黒いワンピースについた細かい砂粒を両手でパッパと払い落とすと、仕方なく砂浜を散策し始めた。
こんな騒がしいやり取りの間も、ナターシャは目の前に広がる海に夢中だった。
「まさか……ティルバイトが、海に面しているとは思いませんでしたわ」
独り言のようにため息混じりに話すナターシャ。
ふと後ろを確認してみると、そこには緑の森が茂っている。
ナターシャがティルバイトに来た時もそうだったが、出入り口付近は緑の木々が残っている。
中心部……ロッドベリルの館に近づくほどに、樹木は白黒や銀、地面は紫色に変化していくようだ。それは、魔力の濃度などが関係しているのかもしれない。
常に曇っている森の中と違って、今ナターシャたちがいるここは晴れ渡っている。
空気もカラッとしており、とても爽やかで気持ちのいい海辺だ。
こんな場所がティルバイトのそばにあったのかと……嬉しい裏切りに興奮するナターシャに、パトリックが冷静に話しかける。




