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「まあ、誰かに見られたところで、記憶操作の魔術をかければいいだけですしね。え? なんですか? まさかクソみたいな法をまともに守っているとでも思ってたんですか? それはそれはもーしわけござませーん」
ナターシャに必死に謝罪していたのはなんだったのか。まあ、人間の性根というのは、そう簡単に変わるものではないので仕方がない。
しかし、ナターシャはパトリックの台詞に腹を立てていなかった。
聖女として、怒ったり注意したりするべきかとも思ったが、やっぱりやめた。
アリストといいパトリックといい、やりたい放題だなと思う反面、破天荒な魔術師気質に、だんだん愉快になってきてしまったのだ。
そもそも転移魔術はかなり難易度の高い技なので、滅多に使える者はいない。
それを考えると、人々の生活に悪影響はないだろう。アリストはガリガリなくらい痩せているので、肥満の面でも問題なしだ。むしろもっと食べた方がいい気がする。
ナターシャがちょうど食事のことを考えた時だった。団員の一人がお腹を鳴らしたのは。
「そろそろ腹が減ってきたな」
一人が自分の腹部を撫でて空腹を訴えると、他の団員たちもそれに頷いて同調する。
今朝はガネットの呪いを解くこと優先で、全員朝食を摂らずにいたので、腹の虫が騒ぐのも無理はない。
とはいえ、団員はみんな痩せ型だ。魔術師は頭脳を駆使して繊細な技術を磨くことが大事なので、騎士のように肉体的な鍛錬はしない。ゆえに、魔術に夢中になればなるほど、ひょろガリ度が上がる傾向にあった。
「今日の食事当番はパトリックだったよな」
「ああ、団長は出かけちまったけど、どうする?」
「みんな先に朝食を取ってください、町で買ってきたパンとハムに、チーズもありますよ」
「おお、じゃあ先に行ってるぞ」
他の団員たちは、みんなパトリックに片手を上げて軽く挨拶すると、ゾロゾロと部屋を出ていった。
すると室内には、ナターシャ、パトリック、そしてガネットの三人だけになる。
「パトリックは食べませんの?」
「団長を差し置いて食事はできませんので」
「あ、あたしだってお兄様待つもん!」
ナターシャとパトリックの会話を聞いていたガネットが、座ったままグルンッと顔だけ振り向いて主張した。
やはり、この二人は魔術団の中でも特にアリストを慕っているようだ。
ガネットに関しては、団員なのか不明だが。
「では、わたくしも待ちますわ、アリストと一緒に食事をしたいので」
ナターシャも二人に習い、アリストの帰還を待つことにした。
一体どこに行ったのかわからないが、しばらくすれば戻ってくるだろう。
それまでハムは楽しみに取っておこうと、ナターシャは考えた。
なんせ修道院では肉が禁止されていたので、久方ぶりのあの味を想像すると涎が出そうだった。
ふと会話が途切れると、三人を静寂が包む。
ナターシャがこれからどうしようかと思い始めた時、再び口を開いたのはパトリックだった。
「用もないのにここにいたって仕方がないでしょう。二人とも暇なら……今夜の食料調達を手伝ってくれませんか?」
その言葉にガネットは赤い瞳を輝かせ、ナターシャは首を傾げた。




