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「……きか、ざる……?」
アリストに至っては、その意味すら理解できているのか心配になるほどぼやっとしている。
「アリスト、念のために言っておきますが、聞かざるではなく着飾るですわよ、普段とは違う、特別な装いをしていくんですわ」
「と、特別……き、キラキラした、高いやつ……」
「ええ、そうですわね。ですが、あまりギラギラしすぎたものは下品ですから、装飾はほどほどで、色は落ち着いたものがよいかと。普段着のローブと同じ黒でもいいでしょうし、髪や瞳に合わせて白や銀の装いもお似合いかと思います」
アリストに言い聞かせるように話すナターシャは、聖女というよりお母さんのようだ。
アリストは嫌がることなく、ナターシャの話に素直に耳を傾け頷いている。
だが、その頭の中は、自分のことではなく、ナターシャのことでいっぱいだった。
自分が正装するということは、付き添いで一緒に行く、ナターシャも同じではないかと。
「な、ナターシャも、き、着るんだよね?」
アリストの素朴な問いに、ナターシャはふと気づいた顔をした。
ナターシャの方はアリストのことばかり考えていたので、自分の衣装まで頭が回っていなかった。
しかし、アリストの言う通りだ。一緒に式典に参加するなら、ナターシャも合わせなくてはいけない。
「そう、ですわね……わたくし一人だけ聖女服では浮いてしまいますし」
ナターシャの返事を聞いたアリストは、急にカクンと俯くと、そのままスックと立ち上がった。
それを見たナターシャもアリストに続いて立ち上がるが。
「ま、待ってて」
「え?」
ボソッと呟くアリストにナターシャが聞き返すと、アリストはなにか決心したようにバッと顔を上げる。
そして向かい合っているナターシャの両肩を、両手でガッと掴んだ。
「い、いいの、み、見つけてくるから……!」
「……は、はい……?」
理解が追いつかないナターシャは、疑問とも肯定とも取れる曖昧な反応をした。
するとアリストが一拍置いた後に、弾かれるようにナターシャから離れる。
勢い余ってナターシャに触れてしまったことに、今更気づいて羞恥が湧いてきたのだ。
アリストはそれを誤魔化すようにナターシャに背を向けた。
「じ、じゃあ、い、行ってくる」
「え、あの、アリスト、どこに?」
ナターシャが問いかけるが、アリストは聞く耳持たず、徐に右手を持ち上げる。
そして真っ直ぐに前に突き出すと、開いた手のひらから銀灰色の焔のようなものが現れる。
やがてそれは、アリストより一回りほど大きな範囲に広がった。
ゆらゆら揺れる銀灰色の縁に、黒く歪んだ内側の空間。まるで宇宙にでも繋がっているかのような、不可思議ななにかがそこにできた。




