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「ナタ……しゃん……」
「ナターシャですわ」
「う、うん」
どれだけアリストを肯定しても、ナタしゃん呼びだけは阻止したいナターシャ。
するとあっさり折れてくれるアリストに、ナターシャはぷっと吹き出すように笑った。
少し離れた場所に立っていた団員たちは、そんな二人の様子を驚きと感心を込めた目で見ていた。
ナターシャがいきなりアリストの頭を撫で出した時はどうなることかと思ったが、アリストにとってはこれが正解だったらしい。
その証拠に、先ほどまでの重苦しい空気は、和やかなものに変わっていた。
アリストが落ち着きを取り戻したところで、ナターシャは改めて大切な話をする。
「ただ、今回の式典は、パトリックが言う通り、参加された方がよいと思います。仲間たちを大切に思われるならなおのこと」
「う、うん、わ、わかってるんだ、ほんとは、で、出た方がいいって……」
「なぁに、そんな難しく考えられる必要はありません。美味しい料理が食べられてラッキーくらいに思って、適当に時間を過ごせばいいんですわ」
「て、適当が、わ、わからない……む、難しいんだ、ひ、人がたくさんいると、め、目が回って……」
その場にいる全員……特にアリスト愛が強いパトリックとガネットは衝撃を受けた。
ウルトラ人見知りにハイパーコミュ障のアリストが、昨日出会ったばかりのナターシャに、自分の気持ちを伝えていたからだ。
長年の付き合いであるパトリックにさえ、自分の内を話すことなど滅多にない。
特に落ち込んでいる時や、心が乱れている時は、会話すら成立しないというのに。
ナターシャはアリストが悪いと思わなかった。なぜならナターシャも、ナタリーだった頃から、王侯貴族の集まりが好きではなかったからだ。
立場上、式典や夜会などに参加することはあったし、それ自体が悪いとは思わない。人と人との繋がりが大事なこともわかっている。
だが、暇を持て余した貴族たちの噂話や悪口に付き合うのは煩わしく、自分より身分が高い者に媚び諂う奴らの姿は見るに耐えなかった。
ただ、ナタリーは公爵令嬢らしく冗談を言ったり、つまらない話は思考を閉じて適当に流すこともできた。
なんせさっぱりした性格なので、人目が気にならず、嫌なことがあってもクヨクヨしない。
そんな前世の性質を、今世も引き継いでいるナターシャからすれば、アリストはひどく不器用で生真面目に見える。
同時に、自分とは正反対といえるその性質が、なんとももどかしく、愛おしいとさえ感じた。
で、先ほどの頭を撫でる行為に繋がったわけだ。
アリストが心を開いたのは、ナターシャのそんな思いが伝わっていたからかもしれない。




