5-14
「あの、よろしければ復元いたしましょうか?」
復元は傷を修復する要領と似ているため、聖女が得意とする白魔法の部類に入る。
そう思ったナターシャが、パトリックに申し出たのだ。
パトリックはナターシャをチラッと見ると、喜ぶでも疎むでもなく「ではお願いします」と冷静に返した。
パトリックの許可を得たので、ナターシャは彼の前方に浮かぶ細切れになったそれに、上げた片手のひらを翳す。
すると再び金色の光が出現し、みるみるうちに用紙の皺が伸びると、破片同士が合体して一つになった。
接合面もまったくわからない、まるで時を戻したかのような、完璧な復元魔法である。
ナターシャの光が消えると、魔力という支えを失くした手紙が、重力のままに落ちてくる。
それを受け止める形で手にしたナターシャは、目の前に並んだ文字に目を通した。
まずは『ロッドベリル魔術団長、アリスト・ノワール・マッドボーン伯爵』に始まり、次に『ソリスティリア王国、建国百周年記念式典のご案内』、そして式典が開かれる日時が続き、最後は王都からの書類である証の印が入っている。
国中の王侯貴族たちに配られた、定型文の招待状だ。
しかし、ナターシャはその中で、ふと気になる箇所を見つけた。
書面の最後、王都の印が入っているところに、小さな文字で『必ず来てください』と書いてあったのだ。
それは量産型のやたら整った、冷たく丁寧な文字とは違い、少し丸みを帯びた癖のある文字だった。
まるで親しい相手に書いたかのような、人間味を感じるその一文に、ナターシャは首を傾げた。
筆跡からして招待状を書いたのとは別人だろう。ということは、事務的に作られた招待状に、後から個人的なメッセージを添えた人物がいるということだ。
名前がないので、誰かはわからないが……
「ああ、やはり、招待状で間違いありませんね」
ナターシャの隣で一緒に手紙を見ていたパトリックが言った。
パトリックも最後の一文に気づいているはずだが、特になんの反応も示さない。
パトリックはそれをしたためた人物を知っていた。だからこそあえて触れずに、話を続ける。
「ですが団長は人が多い場所は苦手なんです。だから、夜会などパーティーに招かれても、一度たりとも参加したことがありません。爵位持ちで社交界に行ったことがないのは、団長くらいですよ。そのうちどんどん誘いはなくなり、今となっては、王が直接関係する国がらみの大きな祭典の知らせが来るのみです」
一度たりとも誘いに応じたことがないとは、徹底していてある意味すごい、とナターシャは思った。
権力者に媚びもせず、伯爵の地位を保っているなら、見上げたものではないかとさえ。




