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そんな無自覚な悪役令嬢であったナターシャの元に、一人の人物が訪れる。
コンコンと背後のドアをノックされたナターシャは、ビクッとして口元に手の甲を添えたまま固まった。
しかしそれはほんの僅かのことで、ナターシャはすぐさま出来損ないの聖女見習いの仮面を被る。
そして後ろを振り返ると、下ろした手をドアノブにかけ、ゆっくりと手前に引いた。
すると徐々に廊下に立つ人物が明らかになる。
ナターシャより目線が低い、小柄で華奢な身体。ふわりとカールしたセミロングの銀髪に、透明度の高い優しげなブルーの瞳。
前世は金髪のストレートロングだったが、それ以外は変わっていない。庇護欲をそそる可愛らしい雰囲気も。
「ナターシャ、少し落ち着いた?」
「……ええ、ごめんなさい、あまりにショックで、取り乱してしまいましたわ……」
「無理もないわ……幼い頃から一緒にがんばってきた親友の私が大聖女になるというのに、自分は底辺の扱いだなんて……辛くなるのも当然よね」
セシリアはナターシャに憐れみの目を向けて言った。
自分は『大聖女』であり、お前は『追放者』だという事実を突きつけるように、あえて傷つく言葉を選んで強調している。
しかし、ナターシャは悲しみもしなければ、怒りもしない。
――はいはい、今日も嫌味にご苦労様ですこと。
ナターシャはそう思いながら、伏せた目に手をあて、泣いているふりをした。
「……ありがとう、セシリア、わたくしのことをわかってくださるのは、昔からあなただけですわ」
「当たり前よ、だって、私たち大親友じゃない」
虫も殺さない柔らかな微笑みで、前世と同じことを言う。
その大親友を死に至らしめたのは誰なのか。そんな台詞が喉まで出かかる度、ナターシャは飲み込んだ。
「そうね、セシリア……」
「寂しがらないで、ナターシャ、離れても私たちの関係は変わらないのだから……例え、とても遠くに行っても」
いや、もう絶縁でけっこうですわ、と思うナターシャだったが、今はセシリアが最後に言ったことの方が引っかかる。
例え、とても遠くに行っても……。
それは、ナターシャがこれから行く先を予期しているかのような言い方だった。
ナターシャが黙っていると、セシリアはニコッと笑って言葉を続ける。




