5-12
一体今、なにが起きたのか?
ナターシャは呆気に取られて、しばらく言葉を失った。
それはガネットも同じのようで、目の前に立つアリストを茫然と眺めている。
アリストがガネットの頭から手を離すと、ようやくハッとしたナターシャが言葉を漏らす。
「え……な、なにをしたんですの?」
「ああ、術をかけたんですよ」
「えっ、じ、術……!?」
ナターシャが勢いよく振り返ると、そばに立つパトリックと目が合った。
「はい、特定のことを他言できない制約の魔術です。団長が今おかけになったのは、あなたの本当の力について。それをこのメンバー以外の人間に言おうとすると、声が出なくなり、身動きも取れなくなるんです。ちなみに私たちも全員、昨夜のうちにかけられ済みです」
当然のように淡々と述べるパトリックに、ナターシャはポカンとして瞬きを繰り返した。
チミチミ池のような自然界に存在する呪いなら、白魔法で解くことができる。が、人為的なそれは、かけた人間がキャンセルする、もしくは、かけた人間の魔力を上回らなければ解くことはできない。
となれば、かなり確実な方法ではあるが。
「そ、そう、でしたのね……」
ナターシャはポツリと呟くと、視線と一緒に眉尻を下げる。
アリストが『大丈夫』だと言ったのは、団員たちを信用しているからという意味だと捉えていた。
まさか黒魔術をかけて口を閉ざしているとは……そんな大層なことになっていると思わなかったナターシャは、責任を感じてしまった。
「……なんだか、申し訳ないですわね、苦労をおかけして」
「ちっとも苦労ではありませんよ。元より私たちが団長命令に背くことはないので、術をかけられようとかけられまいと、どちらでも変わりません」
冷静なパトリックの答えに、ナターシャは妙に納得してしまう。
確かに、魔術をかけられたところで、制約を破ろうとしなければ、特になんの不便もないのだ。
その証拠に、パトリック以外の団員たちも、意義を持つことなくすんなりと受け入れている。
団員たちにとって、団長命令は絶対。それだけアリストに対して忠誠心が高いということだ。もちろんアリストもそれをわかっているので、みんな秘密を守るとナターシャに言っていた。
しかし、だとしたら、わざわざ術をかける必要はなかったのでは? と思うが……そこにはまた、アリストなりの配慮が含まれていた。
「それなのに、わざわざあなた方に魔術をかけたのは……」
「あなたを安心させるためでしょうね。まあ、ガネットには必要不可欠だったようですが……」
そう言ってパトリックは、ほっぺをパンパンに膨らませてむくれるガネットに目をやった。
ナターシャが力を隠しているのを知っていたなら、術をかけられる前に言いふらしてやったのに、と考えているようだ。
ここに来たばかりのナターシャに、『みんな信用できるから大丈夫だよ!』といくら言っても、誰かが他言するのではという一抹の不安が残る。
だからアリストは、黒魔術を使って確実な制御を証明したのだ。
実際自分の目でアリストが魔術を使っているところを見たナターシャは、これ以上安心する方法はないと思った。
出会ったばかりの自分に、なぜそこまでよくしてくれるのか、ナターシャは不思議に感じながらも、重ね重ねアリストに感謝した。




