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一切の音を遮断したアリストは、ゆらりと身体の向きを変えると、そのまま直進し、ナターシャとパトリックの間……二人が握りしめている両手の部分に身体を捩じ込んだ。
そして二人の手が離れるまで、強引に力をかけて突っ切る。
突然のことに驚いた二人がようやく握手をやめると、目の前に立つアリストを見た。
しかし、アリストが目を向けているのは、自身の右側に立つパトリックだった。
普段は自信なさげに垂れている銀灰の瞳が、吊り上がってパトリックを捕らえている。
「いい加減、離れろ」
無意識のうちにドSスイッチが入ってしまったアリストは、またしてもパトリックに命令口調で言い放つ。
普通はここで不穏な空気が漂いそうなものだが。
――だ、団長が、私にヤキモチを……!
盛大に勘違いしたパトリックは、アリストの冷たい眼差しも合間って、最高に興奮した。
もちろん、アリストが嫉妬したのは、ナターシャに触れていたパトリックに対して、なのだが、アリスト自身その事実に気づいていなかった。
しかし、アリストの言動を前にした団員たちは、彼の怒りの理由を察した。
十歳であるガネットでさえ、なんとなくわかってしまったくらいだ。
気づかないのは超手前味噌なパトリックと、困っている自分を助けてくれたと思っているナターシャだけだった。
ナターシャは別に鈍感なわけではないが、アリストとは昨日知り合ったばかりで、まだまだわからない部分もたくさんある。だからアリストの言動を恋愛感情に直結させるという、安易な考えには至らなかった。
なにより今のナターシャは、もっと別のことに思考が傾いていた。
ナターシャ最大の望み、破滅エンドを回避するために必要不可欠な願い。
それを叶えるために、ナターシャは改めて団員たちに向き直ると、横並びになった彼ら一人一人と丁寧に目を合わせていった。
「あの……お知り合いになったばかりのみなさんに、こんなことをお願いするのもなんですが……わたくしが大聖女並みの魔力を持っていることは、ここだけの秘密にしておいてくださいませ。こんな力があることが王都の誰かに知られたら、連れ戻されて王宮づきの大聖女にされてしまいます。わたくしは静かに暮らしたいだけなので、そんな大層な役割は望んでいないのです」
「はい、もちろ……」
「ずえーーーったい、やーーだーー!!」
快諾しようとした団員たちの声を、甲高い大音量が掻き消す。
大人しくなったと思われたガネットだったが、力を蓄えていただけのようだ。
静まり返る室内で、ガネットは紫の髪を振り乱し、地団駄を踏んで騒ぎ立てる。
「絶対絶対秘密になんてしてやんない! ティルバイトの外に出て、手当たり次第にその辺の人間に言いふらしてやるんだから! そんで早くお兄様の前から消え――」
いつの間にか、ガネットの前に立っていたアリスト。
その手のひらがガネットの頭にのせられたかと思うと、次の瞬間には銀灰の焔のような放射体が現れた。
魂のように揺らめくそれが瞬く間に消え去ると、後に残ったのは静寂だけ。




