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「……それでは、今後は仲良くしてくださるということでよろしいでしょうか?」
「はい、もちろん」
「では、顔を上げてください。わたくしが言うのもなんですが、昨日のことは水に流して、改めてよろしくお願いいたします」
パトリックが倒していた上半身をゆっくり起こすと、笑顔で右手を差し出すナターシャと目が合った。
パトリックは安堵の表情を浮かべると、自身も右手を出して、ナターシャのそれと繋いだ。
こうして二人は微笑みながら向かい合い、友好の証として握手を行った。
……はずなのだが、ナターシャはすぐに違和感を覚え始める。
柔らかく重なるだけだったはずの手に、妙に力を込められている気がする。
いや、これは気のせいではない。確実にパトリックはナターシャの手を過剰な力で握りしめていた。
「……でも、団長を一番お慕いしているのはこの私ですから、そこんとこお忘れなきよう」
ナターシャの手をギッチギチに握りながら、見開いた目で見つめてくるパトリック。その背後にはメラメラと炎が燃えているようだ。
やはりパトリックはパトリック、本当に反省していたのかと疑いたくなるほど、下手に出ていた時間が短い。
ナターシャは顔を引き攣らせながら、痛いわねこの変態野郎、と心の中で罵りつつ、自身も最大限の握力で応戦する。
まるで自分をライバル視しているかのようなパトリックの物言いに、辟易するナターシャ。
面倒ごとに巻き込まれないよう生きている自分を、そんな対象として見ているのなら、とんだお門違いだと思う。自分がアリストに特別な感情を持っているわけでもあるまいし……
と、そこでナターシャは、自身の思考回路に待ったをかける。
アリストに特別な感情……? いや、まさか、それはないだろう。動物的な可愛さというか、珍獣を見るような微笑ましさはあるけれど……
ナターシャが自身の中に生まれた疑問を感じ取った時。
ただならぬ気配がこちらに向かってくるのに気づいた。
先ほどまで団員たちに歓迎されたナターシャを、心穏やかに見守っていたアリスト。
だが、ナターシャとパトリックが握手をした瞬間、胸の内がモヤッとした。
軽く触れるだけですっと離れれば、ただモヤッとするだけで終わったのだろうが。
パトリックがナターシャと張り合うがゆえに、その手と手はガッチリ繋がり合っている。
ナターシャはナターシャで本来の負けず嫌いを発揮してしまい、痛いからといってリタイアしようとはしないので、余計長引いていた。
嘘くさい笑顔のまま、やや腰を落として牽制し合う二人は、もはや握手ではなく、腕相撲をしているように見える。
だが、そんな細かい事情はどうでもいい。アリストにとって重大なのは、ナターシャが自分以外の男と触れ合っていることなのだから。
アリストの狭くなった視界には、ナターシャとパトリックだけが切り抜かれたように映っている。




