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今気にするのはそこではなく、アリストの配慮だ。
アリストはナターシャが、自ら秘密をバラしてでも、ガネットを助けたいと言ってきた……とみんなに伝えていた。
その方が秘密を知られて仕方なく……と言うよりも印象がよく、みんなに受け入れてもらえると思ったからだ。
アリストの気遣いを知ったナターシャは、彼に心から感謝した。アリストはコミュ障ではあるが、人として大切な知性を持ち合わせていると感じながら。
ナターシャは再びパトリックに視線を戻すと、自身も彼に負けないくらい深く頭を下げた。
「いいえ、謝るのはわたくしの方ですわ。どんな理由があれ、嘘をついていたんですもの」
「俺は最初っからいい聖女様だと思ってましたよ!」
ナターシャの謝罪を聞いていた団員の一人が声を上げた。
驚いたナターシャが顔を上げると、パトリックの肩越し、前方にいる団員たちが、にこやかにこちらを見ていることに気づく。
「魔獣が荒ぶらずに、森も受け入れ態勢だったもんな!」
「それに団長の食事もぺろりと平らげちまったし」
「俺たちやこの地に対しての差別意識みたいなものをまったく感じなかった」
「みなさん……」
みんなの台詞や態度から、認められていることがわかったナターシャは、じんわり胸が温かくなった。
少し離れた場所に立っていたアリストは、そんなやり取りを穏やかな気持ちで見守っている。
ナターシャが嬉しくなっている間も、パトリックは変わらず黒い床の方を向いたままだ。
「他の者たちが言う通りです。それなのに、私もくだらない固定概念に囚われ、本質を見抜けていなかった、どうせ今までの聖女と同じだと……」
まるで昨日とは別人のように、誠心誠意込めて謝ってくるパトリック。
彼とガネットは、おそらく他の団員よりも、アリストに対する思いが強いのだろう。
だからこそ、アリストを卑下してきた『聖女』という存在に強い拒否反応を示し、不遜な態度を取ったのだ。
そう考えると、人情として理解もできる。むしろ人間らしくて悪くないのでは、とナターシャは思った。




