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「すみません、ナターシャ、ガネットは聖女が嫌いなんです」
振り向いたナターシャの前には、副団長であるパトリックがいた。
彼は少し憂いを帯びた表情で、ガネットの暴挙の理由を語る。
「今までの聖女は、みんな王都に指示されて嫌々来たのがあからさまで……魔獣を毛嫌いする者も多かったですし、なにより、団長への態度がひどかったものですから……」
「アリストに対して……?」
「ええ、団長は優秀すぎるゆえに、恐れられてもいますが……それだけではなく、団長の話し方や振る舞い、外見などが不気味だと言って、まともに話そうともせず、早く帰りたがる者ばかりだったんです」
パトリックが告げた事実に、ナターシャはあきれて短いため息をついた。
今まで来た聖女がみんなそれでは、聖女によい印象を持つはずがない。
どうやらガネットの暴言は、ナターシャ個人に対してではなく、『聖女』に対して向けられたもののようだ。
聖女とは本来、誰に対しても平等であるべきもの。それをアリストの見かけや話し方で判断するとは、不届き千万である。
「それはなんとも、失礼かつ愚かな行いですわね……外見や噂なんかに囚われていては、本質を得ることはできないというのに……」
眉間に皺を寄せて渋い表情を作るナターシャに、パトリックは閉じた唇に力を入れると、静かに、だが深々と、彼女に頭を下げた。
「……聖女、ナターシャ、昨日は大変失礼いたしました」
パトリックの予想外の言動に、ナターシャはいささか面食らった。
「昨夜、すべて団長から聞きました。あなたがとてつもない力を秘めた大聖女であること、慎ましい暮らしのために、その力を隠してきたこと……そして、ガネットの呪いを解くために、自らの希望を犠牲にする覚悟で、正体を明かし申し出てくださったこと」
最後の一文に疑問を持ったナターシャは目をパチクリさせた。
ガネットの呪いを解くために、自ら本当の力を明かした……?
いや、違う。単純にアリストにバレたから、ガネットの呪いを解く流れになったはずだが。
そこまで考えたナターシャは、ふとある結論に至り、アリストに目を向けた。
するとナターシャの視線に気づいたアリストは、なにを勘違いしたのか、目を逸らしながら、低く持ち上げた手を僅かに揺らした。
――いや、かわい……ではなくて。
恥ずかしそうに手を振るアリストに、和みそうになったナターシャは自分にツッコミを入れた。




