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「ここは……?」
「ま、魔術の、訓練したり、た、試しに使ったりするところ、こ、ここの部屋は、ぼ、ボクの魔力を、た、たくさん使ってるから、か、簡単には壊れない」
アリストはそう言うと、合わさっている右側のノブを握ると、手前に引いて扉を開いた。
すると中央の五芒星が半分に割れると同時に、中の様子が明らかになる。
最初にナターシャの目に入ったのは、正面に座った幼女の姿。
彼女は背もたれつきの黒い椅子に腰掛け、膝に手を置いて前屈みになっている。
ナターシャは部屋に足を踏み入れると、室内を見渡した。
なにも物が置かれていない、白い壁に囲まれただだっ広い空間、青白い照明の下、黒い床のど真ん中に、彼女はいた。
ナターシャがゆっくりと幼児に近づいていくと、彼女が座った椅子の下に、大きな星の紋を見つける。
扉にあったものと同じ色や形をしたそれは、直径一メートルはあろうか、彼女が座った椅子をまるっと囲っていた。
そしてその後方には、ロッドベリルの団員たちが集結している。
ローブを着た魔術師たちの前で、怪しげな紋の上に一人座らされた幼女。
その異様な雰囲気に、今から悪魔的な儀式でも始まるのかと錯覚するナターシャだが、いやいや違うと自分の役割を思い出す。
彼女は救済の対象者であり、生贄ではないのだから。
気を取り直したナターシャは、幼女の前で足を止めると、目線が同じになるようにその場にしゃがみ込んだ。
スミレのような紫色のツインテールに赤い瞳、小さな身体。やはりナターシャが森で遭遇した女児は、ガネットで間違いなさそうだ。
「初めまして、あなたがガネットさんですわね? わたくし、聖女のナターシャと申します」
実はすでに会っていたことは誰にも言っていないので、とりあえずここは初めましてで通してみる。
俯いたガネットの紫の前髪から、赤い瞳が覗く。しかしそれは一瞬のことで、ガネットはすぐにナターシャから目を逸らすと、瞼を伏せてしまった。
可愛らしい容姿をした、か弱い雰囲気の女の子だ。きっと身体が小さくなってしまったショックや戸惑いにより、精神的ダメージが大きいのだろう。本当にこの聖女に任せていいのかという不安もあるかもしれない。
そう考えたナターシャは、ガネットの気持ちを落ち着かせようと、穏やかに微笑んだ。
「大変な目に遭われましたわね。すぐに元の姿に戻して差し上げますので、お待ちくださいませ」
そう言って立ち上がるナターシャの傍らには、やや心配そうな視線を向けるアリストがいる。
「……な、ナターシャ、で、できそう……?」
「心配ありませんわ、わたくしに解けない呪いはありません。万が一そのようなことがあれば、解けるまでやるまでですわ」
ナターシャが勇ましい発言をする度に、前世のナタリーが背後にちらつく。
その堂々たる姿に、思わず見惚れてしまうのは……アリストだけではないかもしれない。
ナターシャは正面からガネットに向き合うと、そっと両手を持ち上げ、ガネットの頭上に翳した。




