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「な、なぜ……」
「ほ、本当の自分を、い、偽って、い、生きるのは辛い、から……ろ、ロッドベリルのみんなには、ぼ、ボクから、伝える」
まさかの正論に、ナターシャは言葉を詰まらせた。
ここでずっと生きていくなら、周りを騙し続けるよりも、本来の自分を理解してもらった方が楽だろう。
しかし、アリストはともかく、他の団員たちが事実を受け入れてくれるとは限らない。
魔術団にしては少人数だが、それでも二十人ほどはいる。正体を知る数が増えるほどに、口外されるリスクが高くなるため、なるべく広めたくないのがナターシャの本音だ。
「で、ですが……」
「……あ、安心して、ロッドベリルは、ぼ、ボクが作った魔術団……み、みんな、秘密を守る」
吃音症なのに、アリストの声音は妙に落ち着いていて、鎮静作用でもあるようだ。
ナターシャをちらりと見るアイスグレーの煌めく瞳も、混じり気なく澄んでいる。
きっとこの人は、悪いようにはしない。
任せてみようと思わせる、不思議な魅力があった。
「……団員のみなさんを、信頼されているんですのね」
アリストに団員たちとの絆を見たナターシャは、ふとステラのことを思い出した。
前世で断罪され、今世の人間関係も希薄だったが……その中で唯一、自分に寄り添ってくれた友人と呼べる存在。ステラは今頃、配置先で穏やかに眠っているだろうか。これから元気にやっていけるのだろうかと……この時ばかりは、自分の状況を忘れて彼女の身を案じた。
少し物思いに耽った様子のナターシャに、アリストは目線を下げて答える。
「……ボクの、い、居場所は、こ、ここにしか、ないから……」
どことなく哀愁を感じさせるアリストの物言いと、憂いを含んだ表情。
まだアリストの魔術を見たことはないが、ナターシャの魔力をあっさり見破るくらいだ、その才能や実力はかなりのものと推測される。
それならもっと日の当たる場所で、魔術を活かして栄光を得ることも可能ではないかと思うが。
「あなたほど優秀なら、王宮専属の魔術師にだってなれるでしょうに……なぜ、このような辺境の地に身を潜めるように暮らされているんですの?」
ナターシャのストレートな質問に、アリストは少し、本当にほんの少しだけ、微笑んだように見えた。
「君と、お、同じ」
「わたくしと?」
「ぼ、ボクは、だ、大好きな、魔術をしながら、ま、魔獣たちと一緒に、た、ただ静かに、暮らしたいだけ」
アリストの言葉はナターシャの胸にすっと溶け込んでゆく。
生い立ちも、立場も、性格も全然違う二人だが、同じ生き方を強く望んでいた。
ナターシャは、遥か遠い昔、どこかに置き忘れてきた、大切な旧友に再会したような心地がした。
「わたくしたち、案外気が合うのかもしれませんわね」
今世で初めて感じる清々しさに心躍らせるまま、ナターシャはアリストに可憐な笑顔を向ける。
「友好の証として、アリストと呼ばせていただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、う、うううん、も、もちろんっ……」
頭が吹き飛びそうなほど必死に上下に振るアリストに、ナターシャは動物的な可愛さを見い出す。
「うふふ、嬉しいですわ、どうぞ、わたくしのこともご自由にお呼びくださいませ」
「……じ、じゃあ……な、ナタしゃん」
「ナターシャでお願いいたしますわ」
「あ、う、うん……」




