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「わたくし、本当にここにいていいんですの?」
「だ、大丈夫、ま、魔獣たちも、みんな、き、君を認めてるし」
「わたくしを……?」
アリストの言葉が合図のように、彼の膝に乗っていたデビルウサギが顔を上げると、パッとナターシャの膝に移動した。
いつの間にかナターシャの周りにも、魔獣たちが寄り添うように集まってきている。
ナターシャに好意的なのは、助けてもらったスフェンだけではないようだ。
「も、森が、さ、騒がしく、なってないから」
「他の聖女が来た時は、騒がしくなっていたんですの?」
「ま、まあね……せ、聖女はみんな、ま、魔獣が嫌いみたいだから、す、すごく怖がって、逃げたり、バ、バリアー張ったり、か、過剰に反応したりするから、ざ、ザワザワするんだ」
長くしゃべることが苦手なアリストは、そこで一旦言葉を切ると、ふぅーと呼吸を整えてから、再度口を開く。
「ま、魔獣たちは、せ、繊細で敏感だから、む、無駄な動きをすると、て、敵とみなして、こ、攻撃することもある」
アリストの説明で、ナターシャはなぜ自分が攻撃されなかったのかわかった。
武器を持たない聖女の装いで、怖らがることもバリアーを張ることもせず、落ち着いて堂々と歩いていたからだ。
だから魔獣たちが、興奮して群がってくることもなかったのだ。
しかし、今までここに来た人間たち……主にティルバイトに派遣された聖女は、魔獣を恐れて騒ぎ、過剰防衛したせいで、彼らの怒りを買った。
そして王都に戻った聖女たちが『魔獣に襲われた』だの、『野蛮で恐ろしい場所』だの触れ回ったため、まるでティルバイトは、無差別に人を襲う残虐な魔獣たちの巣窟のように語られるようになったのだ。
魔獣たちからすれば、ティルバイトは自分たちの家であり聖域。
そんな大切な場所に得体の知れない者がずけずけと入ってきたら、怒るのも当然だろう。
魔獣たちはただ自分の家を守ろうとしただけなのに、無知な人間による勝手なルールのせいで、悪者にされていたのだった。
「……王都や世間では、ティルバイトは魔獣がうようよしていて、非常に恐ろしいと言われていますが、その理由がわかりましたわ。結局……人間が悪いんですのね」
その台詞を聞いたアリストは、天から光が射し込んだ気がした。
ナターシャの黄金色の髪が、星屑を散りばめたかのようにキラキラと輝いて見える。
「……き、君は、ほ、本当の、だ、大聖女、だと思う……」
感情を込めて言うアリストに、ナターシャは少し困ったように微笑んだ。
「力の上では、ですわね。でも……平穏な暮らしのためには、他に知られるわけにはいかないのです。どうかこのことは、マッドボーン伯爵の胸の内に留めておいてくださいませ」
「……そ、それは、できないよ」
「えっ?」
てっきりまた黙って頷いてくれると思っていたナターシャは、アリストの意外な返事に戸惑った。
しかし、そこにはアリストなりの考えがあったのだ。




