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「だ、だから、ま、魔力を、カバーで、ご、誤魔化してるの?」
「へあ……?」
アリストの指摘により、悪役令嬢ならぬマヌケな声を漏らしてしまうナターシャ。
瞬きを忘れた紫の目に映るアリストは、至極冷静な顔でナターシャを見ている。
「あ、も、しかして……最初から、わかっておられました……?」
ナターシャの問いに、コクリと小さく頷くアリスト。
今まで誰にもバレなかった、魔力テストの時でさえ、上手く隠し通すことができたというのに。
この魔術師は、とっくにそんなこと見破っていたのだ。
つまり、ナターシャが大聖女並みの能力者であることを、アリストは最初から知っていた。
魔獣と会話なんかできなくとも、どのみち結果は同じだったわけだ。
ナターシャはハァァと息を吐き、感心した目でアリストを見た。いや、尊敬に近いかもしれない。
この魔術師にはどんな小細工も、隠し事も通用しないと思い知らされた。
「おっしゃる通りですわ。バリアーなどに使う防御魔法を応用して、本当の魔力をカバーし、ほぼ魔力がないような状態に見せかけているのです」
「そ、そうなんだ、す、すごいね」
いや、すごいのはあなたの方でしょう、とナターシャは思う。
そしてその『すごさ』というのは、単純な能力に限ったことではないと感じた。
アリストに正体がバレているとは知らなかったナターシャは、完璧に騙せていると思い込み、必死に取り繕おうとさえした。
今までの自分の言動を振り返ってみると、情けないやら恥ずかしいやらで、ナターシャは目も当てられない気分になった。
それなのに、アリストはそんなナターシャをバカにするどころか、すごいと褒めてくれたのだ。
おかげでナターシャは、これ以上惨めな気分にならずに済んだのだった。
しかし、アリストが気づいているならと、ナターシャの頭に一つ疑問が浮かぶ。
「……もしかして、魔術団の他の方々も、わたくしの本当の魔力に気づいておられるのでしょうか?」
「そ、それはないよ、き、気づいてたら、みんな、ぼ、ボクに報告するだろうし」
他の団員にバレていないことを知り、一安心するナターシャだったが、まだ大きな謎が残っている。
「……なら、どうして、あなたは気づいていたのに、今まで黙っていたんですの? それも……王都には返さないだなんて……」
知った上で泳がせていたのだろうかと、ナターシャは素直な質問をアリストにぶつけた。
すると、アリストは膝に乗って丸まったデビルウサギを撫でて、ふと顔を上げる。
その目は前方の銀の森を眺めているようで、もっと先にある、別の世界を映しているようにも見えた。
「……ど、どうしてだろう、き、君は……こ、ここに留めておきたいって、そ、そう思ったんだ」
煌めくパールの髪に、嘘のない綺麗な瞳。
明確な理由などない、それでも信じてみたいと、そう思わせるほど、アリストの横顔は美しかった。
アリストに見惚れるがゆえ、ナターシャは気づくことができなかった。
アリストがなぜそんなふうに感じていたのか、その理由が、前世に隠されているという可能性に――。




