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「あら? ケガをしていたんですの? わたくしはスフェンとは初対面でケガがあったことさえ知りませんでした。なので決してわたくしが治したわけでは……」
「わかる、んだ」
「え?」
しらをきりまくるナターシャに、アリストが衝撃の事実を口にする。
「ボク……ま、魔獣の言葉が」
目が点になるというのは、こういうことだろうか。
ナターシャの美しい顔は、完全に崩壊していた。
一瞬頭が真っ白になった後で、徐々に思考が動き出すと、アリストが言った一文字一文字を、組み立ててその意味を導き出す。
――えーと、なんですって? 魔獣の言葉がわかる? はあ、へえ、なーるほど。
頭の中ではやけに冷静ぶったナターシャは、実際にはパニックを起こしていた。
「ま、ましゃか、しょ、しょんな、お戯れを」
――お、落ち着け、落ち着くんですわナターシャ、そんな特殊能力聞いたこともないし、絶対に有り得ませんわ! これで自白を取ろうとしている誘導尋問ですわよ!!
引き攣った笑顔で滑舌が終わるナターシャ。
しかし、そんな必死の抵抗も虚しく終わる。
「す、スフェンが、君に、て、手を翳されて、金の光が出て、あ、あったかかった、って」
――いや……ほ……本当にわかっていらっしゃるーーー……!!
「ガウ!」
――いやいやあなた、ガウ! じゃありませんことよーーー!
傍らに控えるスフェンを撫でながら言うアリストに、元気よく答えるスフェン。
側から見たら微笑ましいこの光景の中で、ナターシャだけが頭を抱えて泣き叫んでいた。いや、あくまで胸の内でだが。
実際はもう、顔面蒼白で暴れる気力もなかった。
なぜナターシャがそこまで絶望したかというと、アリストがスフェンしか知らない事実を語っていたからだ。
魔法を使う時、手を翳すのは誰でも知っていることだ。重要なのは光。他の聖女たちがエメラルドグリーンなのに対し、ナターシャは金色だった。
ナターシャも元はエメラルドグリーンだったのだが、成長に伴い魔力量が大幅に増えた時、金色に変化した。
その時、ナターシャはすでに記憶を取り戻しており、劣等生を演じていたため、誰かの前で魔法を披露することはなかった。
つまり、ナターシャの魔法の光が黄金色であることは、実際治療してもらったスフェンしか知らない。
それがアリストに伝わったということは……要するに、彼は真実を述べているということだ。
魔獣と会話ができるなんて、デタラメでとんでもないスキルだ。
すごいとしか言いようがない現実に、ナターシャはもはやお手上げ状態だった。
「……す、すごい能力でしゅわね……、そ、それも、だいまぢゅつちの力ですの……?」
「う、ううん、これは、う、生まれつき……」
「あ、ああ、そう、です、のね…………」
魔力や技術に関係なく、ただただ神から授かりし能力。それを世間話の一環のように話してしまうあたり、アリストは不思議ちゃんにも見える。
しかし、ナターシャがここに来る前に、アリストとスフェンが会話していたことを想像すると、妙に和んでしまう。
それは、ナターシャがすべてをあきらめ、現実逃避し出したせいかしれないが。
――――終わりましたわ…………
ナターシャは遠くを眺めて、そっと胸の前で合掌した。
せっかくアリストをビンタした件は穏便に済んだというのに、今度こそ終焉の鐘がナターシャの中に鳴り響く。




