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そんなわけでナターシャは、親や国の期待をも背負って修道院入り。
そして、そこでセシリアに出会った。
……が、だからといってすぐに変化が起きたわけではない。
素質検査で一番反応がよかったナターシャと、二番目に反応がよかったセシリア。
将来有望と言われた二人は、すぐに打ち解け、立派な聖女になるために切磋琢磨し合った。
そんなある日、ナターシャが修道院の庭の草むしりをしていた時だった。
後ろからセシリアに「ナターシャ」と名を呼ばれた。
その瞬間、ナターシャは、ふと疑問に感じた。
自分は本当に『ナターシャ』なのだろうかと。
そう感じたのをきっかけに、突然キイィと耳を刺すような高い音が響き、みるみるうちに記憶が蘇ってきたのだ。
本当になんでもない日常の最中に、突然流れ込んできたそれに、ナターシャは驚嘆した。
そして同時に、愕然とした。
なぜって、ナターシャの脳裏に一番最初に浮かんだビジョンは、親友であるはずのセシリアが、自分を貶める場面だったからだ。
いや……正しくはセシル、だ。
現世でセシリアと呼ばれている彼女は、前世ではセシルという名だった。
この記憶が蘇った時、ナターシャはまだ六歳で、同い年のセシリアもまだ幼女だった。
それでも、頭の映像の中にいる女性が、成長したセシリアであると、ナターシャは理解できた。
――ああ、そうですわ、かつてわたくしは『ナタリー』だった。濡れ衣を着せられ、断罪された……。
ナターシャが自分が何者であるか、を知ったところで、遠くから駆け寄ってくるセシル……セシリアに気づいた。
彼女はにっこりと微笑み、ナターシャってばほんとに草むしりが好きなのね、と言った。
記憶が蘇る前のナターシャなら、適当に流すか、そうかもしれないなんて、相手に合わせて頷いていたかもしれないが。
――いや……いやいやいやいや、別に好きじゃないですわよ……!?
記憶が戻った途端、ナターシャはセシリアに対する違和感に気づいた。
出会ってから……いや、再会してからというべきか、一年ほどの間、なんの疑問も持たずに接してきたが。よく考えてみれば、引っかかる点が多々ある。
草むしりは最初、一緒にしようと話をしたはずなのに、いつの間にかナターシャの役割になっている。
その他にも、皿洗いや掃除など、地味な仕事は全部ナターシャに押しつけてきた。しかも、それをあたかも自分がやったかのように、指導者の聖女に報告していたのだ。
――ナターシャは私の親友などと言っておきながら、なんという腹黒さ……前世と同じですわね……!!
自身を欺き、断罪に導いた張本人を前に、ナターシャは怒りに震えた。
そして復讐をちか……おうとした時、いや、ちょっと待てよと、もう一人の自分が止めに入る。
別世界か、違う時間軸か知らないが、以前の自分が断罪されたのは確かだ。
しかし、それは過去の話。終わったことを引きずって、今世まで不幸にするのか。
ナターシャはよく考えた。
今の自分の状態は、信じ難いが、おそらく転生している……ナタリーの記憶を持って、ナターシャに生まれ変わっているのだ。
だとすれば、せっかく与えられた第二の人生、変な奴らに振り回されるよりも、楽しく生きた方がいいのでは?
いや、むしろ……楽しく生きる道しかありませんわ!!
ナターシャはそう結論付けると、破滅エンドを回避すべく、策を練ることにした。




