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「……本当に、ため息が出るほどの麗しさですわね」
アリストは自分の耳を疑った。
ナターシャの言葉が自分に向けられているのが信じられず、困惑して固くした身体を縮めた。
「……じ、地味だし、全然、き、綺麗じゃない」
「なにをおっしゃるんですか、パールのような優しい煌めきの髪に、銀の宝石のような瞳……こんなに神秘的な美貌、わたくしは初めて見ましたわよ」
アリストのすぐそばでしゃがみながら、熱弁をふるうナターシャ。今朝ビンタした頬も腫れていないようで安心した。
あまりにストレートすぎる褒め言葉に、アリストの白い肌がみるみるうちに真っ赤になってゆく。
なにか返事をしなければと思うのに、激しい鼓動に邪魔されて、上手く言葉が出なかった。
「き、き、君の、方が、き、き、きききキーィキキキ……」
緊張のあまり、アリストの滑舌の悪さがピークに達し、猿の鳴き声のようになってしまった。
しかし、ナターシャはアリストがなにを言おうとしているのか察すると、毒のない笑顔で応える。
「綺麗と思ってくださるなら嬉しいですわ」
ナターシャは今世ではともかく、前世では散々容姿を褒められた。だから今更そんなことで照れたりしない。
褒められ慣れている、美人ならでわの素直かつ余裕のある対応に、アリストはギュンッと胸を鷲掴みにされた気がした。
――な……なんか、ボク、おかしい……? な、なにか変なものでも、た、食べたかな……?
間違いなく晩餐で変なものを食べてはいるのだが。アリストの舌は特殊なので、自分が作った料理は変なうちに入っていない。
沸騰したように顔が熱くなるのも、動悸が激しくなる本当の理由も……アリストはまったくわかっていない。
魔術一筋十八年、コミュニケーション能力は見ての通りなので、恋愛経験は言うまでもない。
アリストは静かに深呼吸をし、心を落ち着かせてから、気になっていたことをナターシャに聞くことにした。
「……き、君は、な、なんで、ここに……?」
はい、ついに来ましたこの質問、と思ったナターシャは、ふっと景色を見やり、金髪を指で耳にかける。
そして館の壁を背にして、アリストと横並びになる形で腰を据えると、すでに用意していた答えを口にした。
「気分転換に夜風にあたりたいと思いまして……ですが、風はまったくありませんわね」
まさか口止めのためにガネットを探そうとしていたとは言えないので、ナターシャは最もらしい理由をつけて自然に振る舞った。
しかし、風がないことが気になっていたのも事実だ。ティルバイトに入った途端、外の世界とは違う空気が流れているように感じた。




