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するとピクッと反応を示したスフェーンタイガーが、パチッと金の瞳を開く。
特徴的な傷がないので、ナターシャが助けたスフェーンタイガーなのか、他のスフェーンタイガーなのかわからない。
しかし、スフェーンタイガーの次の行動で、ナターシャは確信を持ってしまう。
スフェーンタイガーはムクッと起き上がると、アリストの向こう側に立つナターシャを見るなり歩み寄った。
そしてナターシャの周りをグルグル回りながら、彼女に身体を擦りつけてきたのだ。
魔獣といえども虎なので、性質は猫と似ている。スフェーンタイガーのナターシャへの接し方は、猫が甘える時に取る行動と同じだった。
その様子を見たアリストは、銀灰の瞳を丸くした。
「す、スフェンが、懐いてる……め、珍しい……」
「そ、それは光栄ですわね、きっと今日は機嫌がいいんですわ、おほほほ」
口元に手の甲を添え、上品に笑ってみせるナターシャ。その間もスフェンはナターシャに大きな身体をすりすりしている。
警戒心の強い魔獣が、なんの理由もなくこんなに懐くはずがない。この個体は間違いなく、ナターシャが助けたスフェーンタイガーだろう。
とはいえ、これで正体がバレるわけではないので、ナターシャが焦る必要もない。
だから嬉しそうにくっついてくるスフェンを、可愛がる余裕もあった。
サラサラした黄緑色の毛並みが頬をくすぐると、ナターシャは小さく笑ってスフェンの頭を撫でる。
「それにしても、本当に美しいですわね……スフェンという名前は、スフェーンタイガーから取られましたの?」
「うん……く、詳しいね」
「修道院で生き物の本を読んでいた時、魔獣についても書かれていたので。ですが、本当にそんな生き物がこの世に存在するのか、狭い世界しか知らなかったわたくしには、嘘のように感じておりました。……今、こうして実際に目にしてみて、驚き……いえ、感動に近い気持ちでいますわ」
ナターシャが魔獣に好感を持っているのを知ると、アリストは嬉しくなって顔を上げた。
「……ま、魔獣、も、もっと、見てみたい?」
「そうですわね、叶うならば」
「よ、よかった」
「え?」
「今から、も、もっと、来るよ」
アリストがそう言うのが早いか否か、銀の森の向こうからなにかがやって来る気配。
ガサガサと、茂る葉を掻き分けるような音と、いくつもの足音が重なり合って聞こえる。
ナターシャがそちらを振り向いた時には、すでに銀の樹木を抜けてきた魔獣たちの姿があった。
ナターシャは目も口も丸く開き、しばらく言葉を失った後、次第にふるふると身体を戦慄かせた。そして……。
「ッハアアアアアーーーー!!!!」
ティルバイト中に響き渡りそうな声量がナターシャの口から放たれた。
恐怖ゆえの悲鳴ではない、歓喜ゆえの雄叫びだ。




