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「こ、これはこれは、マッドボーン伯爵、どうなさったんですの、このような夜更けに……」
上手く切り抜ける言い訳を考えながら、ナターシャは平静を装いアリストに話しかける。
こちらの存在に気づかれてしまった以上、無視する方が怪しまれるからだ。
しかし、ナターシャはその言葉の最中、アリストの向こうに気になるものを見つけた。
真夜中だというのに木々が纏う銀光により、よく見ると形容の判別がつく。
黄緑色の大きた身体をした、波のような模様が入った……まさか。
ナターシャがある可能性に気づいた時、アリストはなにか話していた。
話してはいた、が、口がゴニョゴニョ小さく動いているだけで、今のナターシャの位置からはなにを言っているかわからない。
アリストと会話するには、彼の近くに行くしかなさそうだ。
「あの、おそばに行ってもよろしいでしょうか?」
ナターシャが尋ねると、アリストは一瞬ビクッとしたが、その後躊躇いながらもコクリと頷いた。
アリストの許可を得たナターシャが歩み寄ると、彼の隣にいる生き物が鮮明に見えてくる。
アリストに寄り添うようにして、うつ伏せなって寝ているのは……やはり、スフェーンタイガーだった。
まさか自分があの時助けたスフェーンタイガーではなかろうなと、ナターシャは一瞬ヒヤリとする。が、すぐに落ち着きを取り戻した。
仮にそうだったとしても、スフェーンタイガーが人間のように話せるわけでもなし、問題ないだろうと思ったからだ。
ナターシャがすぐそばまで来ると、アリストは彼女から視線を外して少し俯いた。
遠くにいると声が聞こえないし、近づくと目を逸らしてしまう、コミュ障の代表のような動作をするアリストである。
「……ボク、い、いつも、これくらいの、じ、時間、ここにいる」
この距離に来てようやく、ナターシャの耳にアリストの言葉が届いた。
どうやら深夜に館裏にいるのは、今日に限ったことではないらしい。となるとガネットの探索はもっと遅い時間の方がいいのか……。
ナターシャは一旦計画を立て直す必要があるとして、とりあえず今はアリストに怪しまれないよう振る舞うことに集中した。
「そうでしたの、魔獣のお世話をなさっているとか?」
アリストはやや間を置いてから、スフェーンタイガーの頭を撫でた。
魔獣が人間に寄り添って眠るなんて、よほどアリストを信頼している証だろう。
「……ぼ、ボクが、一緒に、いたいだけ」
そう呟いて、アリストの撫でる指先がスフェーンタイガーの耳に触れた。




