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浴室から出ると、黒いローブのそばにあったバスタオルで身体を拭く。
まだ髪が湿った状態のまま、ナターシャは黒いローブの両肩部分を両手で掴んで持ち上げる。
すると、ふわっとローブが広がり、全貌が明らかになる。
背面は無地だが、前面にはなにやら模様が描かれているのがわかる。
先ほどまで衣類を気にしている余裕がなかったが、よく見てみるとけっこう大きな柄が入っている。
内ボタンで留められるようになった前開き部分に沿って、植物の蔓のような柄が流れるようにあしらわれている。そしてそれと一体化するように、長い縄のような……蛇がいた。
漆黒の生地に刻まれた銀の紋様は、ロッドベリル魔術団の紋章のようなものだろうか。
そういえば、ミカエリアス聖騎士団の紋章は、正義を取ってつけたような白薔薇だった。
いかにもヒーロー、ヒロインと言わんばかりの存在が、ナターシャはナタリーの頃からあまり好きではなかった。
そのせいだろうか、正義と呼ぶにはダークすぎるアリストのローブにこんなに好感を持てるのは。
――ふふ……悪くないですわね。
ナターシャがアリストのローブに身を包むと、無に近いそこにほんの少しだけ清涼な香りを感じ取る。通常、ローブの下にはシャツやズボンを身につけるものだが、丈も長いし生地もしっかりしているので、肌着さえつければ、ワンピースのように使うことができる。
ナターシャが以前生きていた世界には、魔法や魔術師も存在しなかった。
だから戦う男といえば騎士に限り、汗臭い奴らばかりだったが、それが当然であり、美学でもあった。
しかし、ナターシャは今、この世界に生きていて、アリストのような男の方が、面白いかもしれないと思い始めていた。
とはいえ、悠長に構えている暇はない。
早くガネットに口止めしなければ。回復魔法を使っていたことを、誰かに話されたら終わってしまう。
ナターシャはバスタイムで緩みがちになった気持ちを引き締め、ガネットを捕まえる計画を立てた。
そしてバスルームを出ると、階段を上がってすぐに見える自室に入り、さっきまで着ていた聖女服を机の上に置く。
引き出しに入れた荷物は、そのままにしておこう。どうせ中には替えの聖女服しか入っていない。
入浴した後、こっそり新しいそれに着替えようかとも考えたが、アリストがローブを貸してくれたので、その必要もなくなった。
ナターシャはそんなことを考えながら、ベッドの縁に腰を下ろすと、窓横の白い壁にかかった時計を見る。
小ぶりな正方形に収まった針は、もう少しで夜の九時を指そうというところだった。
後数時間すれば、みんな眠りにつくだろう。それまでナターシャは、静かに時を過ごすことにした。
やがて時刻が深夜零時を回っているのを確認したナターシャは、ベッドから立ち上がって出入り口まで歩くと、そうっとドアを開く。
そして廊下の様子を窺いながら、ゆっくりと部屋を出た。
相変わらず静まり返っていて人の気配がない。館の広さに対し住人が少ないのだろう、ナターシャがここに来た時も、誰かいないのかと探したくらいなのだから。
日中でもそんな感じなのだから、真夜中なら住人と遭遇する確率はかなり低そうだ。
ナターシャはしめしめと思いながら、ローブの裾を持ち上げ、階段を下りる。
ナターシャも女性の中では背が高い方だが、アリストはそれを越える長身。そんな彼の足元まであるローブをナターシャが着たら、引きずってしまうのは当然だった。




