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転生悪役令嬢とヤンデレ魔術師のゆるっとやり直し生活(希望)〜今世は大聖女ですが気楽に生きてみせますわ!〜  作者: 碧野葉菜


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第4章、アリストと愉快な仲間たち-1

 一風変わった歓迎会が終わると、ナターシャはバスルームに向かうアリストについていく。

 ナターシャが入ってきた扉とは反対側にある扉の近く、一階南側の角部屋がバスルームになっていた。

 そばにある階段を上れば、二階にあるナターシャの部屋に着くだろう。つまり、バスルームはナターシャの部屋の真下に来る位置にあった。

 アリストはバスルームのドアの前で立ち止まると、ドアノブにかかった看板を持ち、ナターシャに裏表が見えるように動かす。


「こ、これを、こうして、こう……」

「なるほど、使っている間は『満』で、出たら『空』に変えればいいんですわね」


 ナターシャの言葉に小さく頷くアリスト。

 まるで駐車場のようなアナログ標識だが、わかりやすい。これで誰もいないと思って入ったらラッキースケベ……な展開は免れるだろう。

 それにしても綺麗な文字だ。神経質そうな細い線で描かれた『空』と『満』を見て、ナターシャは館前に立てられていた看板を思い出した。


「こちらは誰が書かれたんですの?」

「ぱ、パトリック……、い、家の前のは、ボク……」


 なんとなくそんな気がしていたナターシャは、なにも言うまいと決めて満開の笑顔を見せる。笑って誤魔化すとは、まさにこのことだ。

 

「ご案内ありがとうございます、では、お先にいただきますわ」

「あ、う、うん、き、着替えは、あ、後で置いとくから」

「はぁい、よろしくお願いいたしますわ!」


 ナターシャは妙に明るく言うと、ドアを開けて中に入るなり勢いよく閉めた。

 そしてドアを背に、ふうと一息つく。

 ――危なかったですわ、あのまま掘り下げていたら、またいじけモードが始まるところでした。

 アリストに字が汚いことを意識させれば、また初対面の時のようにグチグチ言い出すかもしれない。そう思ったナターシャは早急に撤収したのだ。

 アリストのことは嫌いじゃないが、あまりに自虐がひどいとストレスゲージが溜まってしまう。

 その末、また手を出すようなことがあれば、今度こそシャレにならない。

 室内で一人になったナターシャは、一安心すると、入浴に取りかかる。

 外から見れば他の部屋と変わらないドア、しかしその中はちゃんとバスルームらしくなっていた。

 脱衣所と浴室、ともに床のタイルは黒く、壁は白い。ナターシャの部屋の二つ分はあろうか、一人で入浴するには十分すぎるくらいの広さがあった。

 コウモリもいなければ蜘蛛の巣も張っておらず、汚れや亀裂も見当たらない。清潔といえばそうなのだが、物が少なくガランとしているので、殺風景で寂しい感じがした。

 しかし、ナターシャはこの雰囲気がいたく気に入った。

 彼女は前世、ナタリーであった頃から、所謂女性が好みそうな、ブリブリした可愛らしいものが苦手だったのだ。

 なので、このバスルームはもちろんのこと、ティルバイトそのものの空気感が好みなのだった。

 色合いで言えば修道院も落ち着いてはいるが、セシリアとかいう嫌な奴がいた上、風呂は週に一回など制限が多すぎた。

 ゆえに、ナターシャはようやく、ゆったりと入浴を楽しめると言える。

 ナターシャが身体を洗い、正方形の白い浴槽に浸かっていると、ドアが開いてフードを被った影が見えた。

 しかし、それは一言も発さず、すぐに踵を返してドアの向こうへ消える。

 ナターシャは浴槽を出ると、浴室のドアをそっと開けて脱衣所を覗いた。

 すると広い洗面所の上に、きちんと畳まれた黒いローブが置いてあった。

 字を書くのは壊滅的に下手だが、衣類はまともに畳めるらしい。それとも、ナターシャに貸すものだから、がんばって整えたのだろうか。

 そう考えると、ナターシャは少し微笑ましい気持ちになった。

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