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「でも、聖女様が魔法を使えないなら、ガネットの呪いは解けませんね」
「ガネット?」
「団長の妹君のような存在ですよ」
ナターシャが初めて聞く名を復唱すると、他の団員が教えてくれた。
妹君のような、と言うからには女性なのだろう。もしかしたらその『ガネット』が、ナターシャが追いかけていた幼女なのかもしれない。
さらに気になるのは『呪い』というワードだ。
初対面の時、アリストがその言葉を呟いていたのを思い出す。
「もしかして、先ほど呪いがどうの、とか言われていたのは、その方のことですの?」
「ガネット……ま、前に、ち、違う領地にある、森に行って、ち、チミチミの池に入って、小さくなった……」
ナターシャが問いかけると、アリストは吃り口調で答える。
先ほどの漲るドS感はどこに行ったのか。まるで別人のように自信なさげな様子に戻っていた。
だが、今はそんなことよりも、ガネットの存在が気になる。
アリストは確か、こんな呪いも解けないなんて、と嘆いていた。
つまり、呪いを解こうとして、本を読み漁っていたと思われる。
「まあ、そうでしたの……それで、マッドボーン伯爵が元に戻そうとしているのですね?」
ナターシャの言葉に、アリストはコクリと頷いた。
「……ボク、く、黒魔術は得意だけど、し、白魔術は、苦手で……」
黒魔法は攻撃系、白魔法は防御系という違いがある。破壊に長けた黒魔法と、癒しに長けた白魔法。
例えば黒魔法が穴を開けるのに対し、白魔法は穴を塞ぐ、といった相反する特性を持っている。
つまり、黒魔法は呪いをかけることはできるが、解くのは難しく、逆に白魔法は呪いをかけるのは難しいが、解くことはできる、ということだ。
アリストは黒魔法に特化しているため、呪いの解除は苦手だった。
ちなみに魔法と魔術の違いは、魔法は先天的に授かった魔力を元にした技であり、魔術は後天的に学んで得た能力を元にした技術である。
この世界において、生まれつきの魔力があるのは女性だけであり、彼女たちが白魔法を専門とする聖女となる。
男性たちが魔力の技術を会得するためには、魔術学校で学び、魔術師になる必要がある、というわけだ。
聖女の黒魔法は禁じられているが、魔術師の白魔術は禁じられていない。しかし、白魔法は聖女が使えるため、魔術師の白魔術は自然と廃れていき、今では魔術師=黒魔術のイメージが出来上がった。
このように、『魔法』と『魔術』は厳密に言うと違うが、魔力を使った技という点は同じなので、共通の表現として使われることが多い。
まあ、要するに、あまり呼び方にこだわらなくていいということだ。
「なるほどですわ、それでご自身をお責めになっていたのですね。他者のためにそこまで真剣になれるだなんて、マッドボーン伯爵は上に立つ者の鏡ですわ」
「え……そ、そ、そう、かな……?」
「そうでございますとも!」
目を泳がせながら両手の指先を弄り倒すアリスト。照れ方が独特だ。
ちなみにナターシャはなにも媚びているわけではない。本当に思ったことを言っているだけだ。




