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「た、たいへん、おいじゅう、ございまふ!!」
滑舌が悪い原因は、口の中がいっぱいになっているせいだろう。
いつの間にか離席していたパトリックの頬はパンパンに膨れ上がり、口からはタコかイカか……よくわからないものの長い足がはみ出している。
どうやらキッチンにまだ在庫があったらしく、パトリックは急いでそれを食べに向かったようだ。
パトリックも本来、アリストに負けないくらい端正な顔立ちをしているのだが、もうその面影はない。あるのはアリストに対する異常な執着心だけだ。
しかし、アリストはパトリックを完全に無視し、ナターシャとの会話を続ける。
「ぼ、ボク、滅多に、作らないんだけど、た、たまに、気分がのった時とか、う、嬉しいことが、あった時、だけ」
「そ、そうでしたの、では、今夜は特別でしたのね」
「見へふらはいだんひょうっ! わたひの方がだんひょうの手料理をたくさん食べれまふ!」
アリストとその後方に見えるパトリックに、チラチラ目を配りながら答えるナターシャ。
パトリックはナターシャと張り合っており、自分の方がアリストの手料理を美味しく食べられると主張したいようだ。
しかし、顔は青を通り越して紫がかっているし、滝汗もすごく、限界が近いように見える。
アリストの料理はかなりぶっ飛んでいるので、パトリックのようになるのは仕方がないこと、いや、むしろこれが正常な反応なのだ。
それなのになぜ、ナターシャは美味しく食せたかというと、前世で狩りが得意だったことも理由の一つかもしれない。
戦慣れし、野生動物などを食すことも多かったナターシャは、常人よりも血生臭いものに慣れており、アリストの料理に懐かしさを感じたほどだった。
しかも長きに渡る修道院生活では、肉を食べることが禁じられていたため、野菜や穀物などの質素な料理ばかりだった。
その反動で、余計にゲテモノ料理が美味に感じたのだ。
まあ、それもこれも、ナターシャの味音痴が根底にあってこその結果だが。
「で、でも、気に入ってくれたなら、ま、また、作るね」
「そ、それは、ありがとうございます」
必死なパトリックが少し不憫に思えてきたナターシャは、アリストに彼の話題を振ってみる。
「あの、あちらは放っておいてよろしいのでしょうか?」
「だんひょうっ、無視しないでくらはい、興奮してしまひまふ!!」
パトリックの特殊な性癖を知ったナターシャは、アリストと同じく無視することに決めた。
周りの者たちの冷静な反応を見れば、今に始まったことではないだろうし、冷たくされることが快感なら同情の必要もない。
パトリックの存在を遮断したナターシャは、目の前に立つアリストだけに気持ちを集中させる。
落ち着いて先ほどの会話を整理してみると、アリストは善意百パーセントで、ナターシャのために料理をしてくれたということがわかる。
初対面で思いきりビンタをした自分に、なぜそんなによくしてくれるのか……不思議に感じたナターシャは、アリストに聞いてみることにした。




