第3章:癖が強すぎる晩餐会-1
熟睡したナターシャが目を覚ましたのは、すっかり日が落ちた頃だった。
コンコンとドアをノックする音に、ナターシャの鼓膜がピクッと反応を示し、瞼がパッと持ち上がる。
かなり寝つきがよく、眠りの質もいいナターシャだが、物音を敏感に察知することができる。それは、前世で長期に及ぶ戦の経験があったからだろう。
すぐさま覚醒したナターシャは、今の状況を思い出すと、大の字で寝ていた身体をガバッと起こす。
そしてベッドを飛び降りると、髪や服を整えながらドアに向かった。
「はい」
数秒前まで寝ていたとは思えない、すっきりした面持ちで、ドアを開くナターシャ。
するとそこには、先ほどこの部屋を案内した人物が立っていた。
「……晩餐の準備が整いましたので、どうぞ」
「えっ?」
ナターシャが目を丸くすると、パトリックの平静な顔が不機嫌そうに歪む。
「いらないんですか?」
「い、いいえ! いただきます、いただきますとも!」
ナターシャが急いで自分の意思を伝えると、パトリックはフイッと顔を背けて階段の方へ向かう。ついてこいということだろう。
先ほどパトリックに自由にしろと言われたナターシャは、食べ物も自分でなんとかしろという意味に捉えていた。
だから予想外な晩餐の誘いに、素直に喜んでパトリックの後を追いかける。
廊下に出ると、すでに窓の外は真っ暗で、さっきまでついていなかった蝋燭型の照明が灯っていた。
来た時よりホラー感が増した館内を歩き、辿り着いたのは一階の中央にある部屋の前だった。
ずらりと並んだドアの中で、一際目立つそこは、観音開きの大きな扉になっている。
パトリックがその右側を開くと、徐々にナターシャの瞳に部屋の中が映り出す。
やはり床は黒く、壁紙と家具は白で統一されている。
ガランとした殺風景な部屋の真ん中に、ドンと置かれた正方形のテーブル。
一辺に五脚の椅子が並んだそこには、すでにローブを着た者たちが腰掛けていた。
しかし、すべて埋まっているわけではない。扉から入って正面の一辺は、まだ誰も座っていない状態……つまり五席分空いている。
パトリックは真っ直ぐテーブルまで歩くと、その空いた席の右端に座った。
そして扉の前で立ち往生しているナターシャに言う。
「どうぞ、自由席なので好きな場所に座ってください」
好きな場所、と言われても、席はほとんど埋まっているのであまり選びようがない。
まだ他の団員も来るかもしれないと考えたナターシャは、端に詰めた方がいいかと思い、仕方なくパトリックの隣に腰を下ろした。
すると左右と正面に団員たちの姿が見える。フードは被ったり被らなかったりそれぞれだが、真っ黒なローブを纏った人物がこれだけ集結すると、なんとも奇妙な雰囲気だ。
しかもみんなやや俯き加減で黙り込んでおり、それが異様な空気を増幅させていた。
――なに……? なんか、こう、まじない的なものでも始まるのかしら……?
ナターシャは訝しげな表情で周りの様子を探るが、誰一人として彼女の方を見ようとしない。
みんなどこか思い詰めた表情をする中、パトリックは無表情で目を閉じていた。
テーブルにはまだ料理はないが、各自の前にはカトラリーが置いてあるので、食事前に違いないのだろうが……。




