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――ま、まずいですわ……わたくしの中のナタリーが暴走して……。
今まで我慢に我慢を重ねて、大人しい聖女キャラを演じてきたというのに、ここに来てぶちかましてしまったナターシャは慌てふためいた。
彼女がなんと言い訳しようか考えていると、本棚に倒れていた彼が俯いていた顔を少し起こす。
すると被っていたフードが頭から滑り落ち、そこに現れた姿にナターシャは目を見開いた。
パールのような淡い煌めきを帯びたふわりとした白髪に、銀灰の優しげな瞳、高い鼻と薄い唇。
陶器のような肌に美しく整ったパーツに、ナターシャは今の状況を忘れて思わず見惚れた。
――まあ……これはこれは……。
その時だった、どこからか走ってくる足音が聞こえてくる。
それは瞬く間に接近し、部屋の中に飛び込んだ。
「どうしたんですかっ!?」
ナターシャが振り向くと、出入り口の前には白髪の彼と同じ、漆黒のローブを纏った男性が立っていた。
白髪の青年と同じくらいの背丈をした彼は、トパーズのようなオレンジ色の瞳を持っており、フードを被っていないため、さらりとした黒髪がよく見えた。
ナターシャのクソデカボイスを聞いて駆けつけてきたのだろう、彼は正面に見える人物に気づくと、急いで駆け寄って支えるように跪く。
そして次の瞬間、彼が口にした言葉に、ナターシャは凍りつく。
「大丈夫ですか、団長っ!」
――――?
彼を視線で追ったナターシャは、自身の耳を疑った。
いやいや、まさか、そんなバカなと、思考が拒絶反応を示す。
「頬が赤くなっていますよ、一体なにがあったんですか、団長」
しかし、ナターシャがいくら否定しようと、現実は変わらない。
再度耳に入ってきた言葉に、ナターシャの脂汗が止まらない。
ナターシャはゴクリと生唾を飲み込むと、勇気を持って口を開く。
「…………あ、あの……そちらの、方は……?」
さっきまでの威勢はどこに行ったのか、蚊の鳴くような声で問いかけるナターシャ。
すると黒髪の青年が振り向き、切れ長の瞳にナターシャを映した。
「ロッドベリル魔術団の長、大魔術師のアリスト・ノワール・マッドボーン様です」
パキッ……ガラガラガラガラ……ズシャーン
決定的な言葉を告げられたナターシャは、己の計画が跡形もなく崩れてゆくのを感じた。




