表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/131

2-6

 しかし、幼女はすばしっこい上、木々や自然の形状を上手く利用しながら逃げるので、なかなか捕まえられない。

 そうやっているうちに、徐々に森が深くなり、辺りは霧に包まれる。

 視界を遮られたナターシャは、目を凝らしながら、茂る白黒の葉を掻き分けて進む。

 完全に幼女の姿が見えなくなってしまったので、焦ったナターシャは声に頼るしかなくなった。

 

「お願いだからお待ちになって! どうかわたくしの話を聞いて……」


 ください、と言おうとした瞬間、突然強い風が吹き込む。

 ナターシャは反射的に目を閉じ、両手を顔の前に出した。

 やがて風がやむと、ナターシャは手を下ろすと同時に、ゆっくりと瞼を持ち上げる。

 するとそこには、漆黒の洋館が建っていた。

 ――こ、これは……?

 ナターシャは瞼を忙しなく上下させると、後ろを振り返ってみる。

 そして大きく目を見開いた。

 ナターシャの背後には、来た道を隠すように木々が生い茂っている。しかし先ほどまでとは色が違っていた。

 木の幹は薄い茶色で、葉はすべて銀色に変わっていたのだ。

 ――あぁ……なんてこと……。

 視界を埋め尽くす銀色の世界に、ナターシャは思わずため息をついた。

 今まで見てきた白黒が混ざり、煌めきを足したようなその色は、この世のものとは思えないほど美しい。

 ナターシャは一頻りその景色を堪能すると、改めて前を向いて、前方にある洋館を瞳に映す。

 等間隔の三角屋根が並ぶ、二階建ての横に長い建物。窓や扉の縁は白いが、それ以外はすべて真っ黒だ。

 これだけだとホラー感が強くなりそうだが、周りを取り囲む銀の樹木のおかげで、さほど恐ろしい雰囲気はない。

 不気味さと美しさが融合した、不思議な空間。そこに立ったナターシャは、紫色の土を踏みしめて洋館に近づく。

 ここがロッドベリル魔術団の城なのか、注意深く辺りを観察しながら。


「確かに魔力は感じますが、人もいませんし確認しようが……」


 あるものが目に入ったナターシャは、ピタリと言葉を止めた。

 ナターシャの足元、紫の地面にブッ刺さった低い木造の看板。

 そこにはきったない字で『ロッドベリル魔術団の家』と書いてあった。

 わかりやすい。看板を立ててくれていること自体はありがたいことだ。

 しかし、とにかく字が汚い。この浮世離れした世界観を台無しにしかねないレベルだ。

 ナターシャが近づいて目を凝らし、頭を働かせてようやく解読できたが。

 前世、貴族であったナターシャは、それなりに教養もあったため、ここまで汚い字を見ると拒否反応が出る。

 ――うわあ……こういう字を書く人は本当に無理ですわ……。

 汚部屋、ならぬ汚字おじにドン引きしながら、ナターシャは看板のそばにある扉から中に入ることにした。

 看板のそばにあった扉なので、ここが正面玄関に間違いないだろうと思った末の判断だ。

 白い縁に囲まれた黒塗りの扉。ナターシャは扉と同じ色合いのドアノブに手をかけると、回して後ろに引いた。

 するとギィィと鈍い音を立てて、木造の扉が開く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ