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2-3

「……ふふ、それでは、出発といきましょうか」


 ナターシャはこの環境に負けないくらい不気味な笑みを浮かべると、自身の再スタートの口火をきった。

 今世のナターシャの見た目は、確かに聖女らしくはある。

 前世と違って鍛えていない分、華奢ではあるし、くっきり縦ロールだった黒髪は、さらさらの金髪ストレートに変貌した。

 しかしこの紫のキツイつり目だけは受け継いでしまったため、悪役顔は否めないのだった。

 ナターシャは手始めとばかりに、右手に持ったカバンに左手を翳す。

 すると、瞬く間にカバンが収縮し、直径三センチほどの大きさになった。

 焦茶色のそれは、まるで一粒のチョコレートのように見える。

 これは、聖女の代表である癒し魔法、ケガなどでできた傷口を小さくして塞ぐのを、無機物のサイズを小さくするよう応用したものだ。

 ナターシャは当たり前のようにやっているが、上級魔法に相当するので、そう簡単にできる者はいない。

 つまり、ナターシャは出来損ないではなかった。

 妬まれないよう、わざとできないふりをして、劣等生を演じていたのだ。

 実はナターシャは、修道院に入る前からすでに不思議な力があった。

 それが修道院で学んだことによりさらに開花し、十歳になる頃には、大聖女でも難しいとされる、瀕死からの救済もできるようになっていた。

 六歳で記憶を取り戻した彼女は、その後表面上は出来損ないを通していたが。なにがあるかわからない世の中、力はいくらあっても無駄にはならないだろうと思い、夜中に人目を忍んで練習に励み、ただでさえ高い能力をさらに磨いていった。

 その結果、今のナターシャが生まれたわけだ。

 そんな類稀なる能力を持っているというのに、なぜ魔力テストで最低値を記録できたのか。

 それは長年の訓練により、自身の魔力値を操ることができるようになったからだ。

 本当は百あるところ、ゼロに見せかけることも可能という、便利な詐欺能力である。

 再生や防御の魔法……白魔法系ならほぼできないことはないであろう。

 大した努力もせずそこまでの力を得たナターシャは、間違いなく天才であり、今世紀最大の大聖女であった。

 しかし本人はそれを一生隠して、気楽に生きることだけを考えている。

 そんなナターシャはチョコレート状になったカバンを聖女服のポケットに入れると、軽くなった身体で足を踏み出した。

 本当は精神を集中させれば、遠くの魔力も感じ取ることができるので、ロッドベリルの城の場所もすぐにわかると思うが、それでは面白くない気がしたため、散歩気分で歩いてみる。

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