第2章:ティルバイトとロッドベリル魔術団-1
その後、魔力テストを受けた全員に通達が届けられると、みんな荷物をまとめて修道院を出る準備をした。
最後に指導者の聖女たちも含め、全員で晩餐会を開く。そして翌朝になると、いよいよ新しい門出を迎えた。
見習いだった彼女たちは、聖女としての第一歩を踏み出すべく、修道院を去るのだ。
身寄りがない者以外は、みんな一度実家に帰り、聖女になったことと、今後についての報告をする。
それから各自、配置された場所で聖女として勤め始めるわけだが……追放者であるナターシャは、一人だけ扱いが違った。
実家に帰ることは愚か、他の聖女たちと一緒に修道院を出ることも許されなかった。
彼女たちが正面玄関を出て、指導者である聖女たちから温かく見送られている頃、ナターシャは裏口から一人ぽつんと外に出た。
するとそこには、迎えの馬車が一台停まっている。小さい馬車には手綱を握った男がいるだけで、他には誰も見当たらない。
着替えが入っただけのカバンを片手に、人目につかない場所で静かに姿を消すなんて、まるで夜逃げのようだ。
ナターシャは後ろを振り向くと、修道院の裏側を見上げた。
――さようなら、窮屈なお城。もう二度と戻りませんわ。
ナターシャは薄く微笑むと、クルッと前を向いて、迎えの馬車に乗り込んだ。
すると運転手はなにも言わず、手綱を引いて馬を動かし始める。
ナターシャが指示を出す必要はない。行き先はティルバイトと決まっているのだから。
ナターシャの実家には、修道院から通達が送られたらしい。だが、返事が来るのを待つ暇もなく、ナターシャは修道院を出る。
返事が来るかもわからなければ、来たところで、あの両親が悲しむとも思わなかった。
聖女じゃない娘はいらない、追放者が身内なんて恥ずかしい……大方、こんな感じの反応だろうと、ナターシャは考えた。
前世のナタリーの両親も、娘のことを自分たちの価値を上げる道具のように扱っていた。
そのためナタリーは、両親とそりが合わず、政略結婚も拒否して自由にやっていたのだ。
まあ、自由にやりすぎて、目立ちすぎた結果、断罪となったわけだが。
そんなこんなで、ナターシャは今世でも両親に未練などちっともなかったのだった。
ナターシャが前世に思いを馳せているうちに、馬車は平坦な道から緩やかな坂を下り、さまざまな町を通り過ぎてゆく。
方角はよくわからないが、徐々に下がってきている気がする。
王都が北にあることを考えると、南下しているのかもしれない。