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ナターシャが追放者であることは、王侯貴族みんなに周知の事実。その中で知らないのはマッドボーン伯爵率いるロッドベリルのみ。
つまり、アリストを仲間はずれにした、集団いじめというわけだ。
――なんて下らない……愚かな貴族ども、この宮殿ごと沈めて差し上げたいわ。
上流貴族たちはアリストのサンタウォーリアでの活躍を知っているはずだが、その上でまだ騎士が一番だとかバカげた考えの元、魔術師を差別して無礼な態度を取っているのか。
古すぎるカチカチ頭に凝り固まった固定概念、何年経っても更新されないその分厚いフィルターのせいで、美しいものさえ醜悪な姿に変わって見えてしまう。
そんな彼らを見ていると、ナターシャはもう二度と貴族にだけは生まれ変わりたくないと思った。
そして同時に、こんなひどい扱いを受けても、怒りに囚われないアリストに敬意を払う。
アリストの力を持ってすれば、こんな奴ら一瞬にして消し去ることができるだろうに。
「アリスト、大丈夫ですか? さあ、こちらに」
ナターシャはアリストの手を引くと、広い会場の隅にあたる、窓のそばに連れていった。
ナターシャが見上げたアリストの顔は青白く、今にも泣き出しそうである。
「……ご、ごめん、な、ナターシャ……」
アリストはどうにか声を絞り出すと、ナターシャに謝罪をした。
「なにを謝るんですの?」
「ぼ、ボクのせいで、き、君まで、わ、悪く言われてるんじゃ……」
動揺していてナターシャに対する言葉は、ハッキリ聞き取れなかった。
しかし、なにか悪口を言っていることは感じたので、アリストは自分と一緒にいるせいで、ナターシャまでとばっちりを受けたのではと申し訳なくなったのだ。
が、アリストの心配をよそに、ナターシャはケロッとした顔で答える。
「ああ、そういったことならご心配なく。わたくし、昔から人の言うのことは気にならないんですの。言いたい奴には言わせておけばいいんですわ。そもそも全員に理解されるだなんて思っていませんし、数は重要ではありません、大切な人にだけわかっていただければ幸せですもの」
歯切れのいいナターシャの言葉は、アリストの頭をスッキリさせてくれる。
――そ、そうだ……ぼ、ボクは、あの人たちが好きじゃない……だ、だったら、そんな人たちに、な、なにを言われたって、平気なはずだ。
重要なのは、自分が大切な人に、大切にされているか、ということ。
アリストにとって、ナターシャは大切な人だ。そのナターシャが、自分を気遣って元気づけてくれる。
じゃあ、それで十分じゃないかと、むしろその他に望むことなんてないんじゃないかと、アリストは前向きに考え始めた。