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「ナターシャ……追放されるって本当? あたし、テストの時……ナターシャが結果を言われてる時、ちょうどお手洗いに行ってて……後からみんなに聞いて、び、ビックリ、しちゃって……」
いかにも気弱そうなステラは、本当に中身も気弱だ。
そしてナターシャと同じくらい、魔力が低く、出来が悪い聖女見習いだった。
だから二人は自然と話す機会が多くなり、劣等生同士、お互い励まし合ってやってきたのだ。
ナターシャの場合、劣等生は仮の姿ではあるが……。
「ええ、本当ですわ、今ジオバール様がお目見えになって、正式に命令が下されたわ、わたくしはティルバイトに追放ですって」
「てぃっ、ティルバイッ……!?」
ステラは驚きのあまり、真っ青になって舌を噛んだ。
ちなみにジオバールのところに一緒に行けなかったのは、またお手洗いに行っていたせいである。
ドジな上に間も悪い、そんなステラのことを、ナターシャは嫌いではなかった。
セシリアと違い、本心で自分を心配してくれていることがわかるからだ。
「そ、そんな……なんで、よりによって、ティルバイトなんかに……そこって、怖い生き物がたくさんいるんでしょ、しかも、ロッドベリル魔術団の偉い人って、相当な変わり者だって聞くし……」
「あの結果では仕方ありませんわ」
「だけどっ、ただテストに落ちただけで……実家に帰してくれたら済むことなのに……」
ステラが握りしめた拳が震えている。
静かに頬を滑り落ちる涙が、修道院の控えめな照明を受けてキラリと輝いた。
「わたくしのことよりも……ステラはテストに合格したのでしょう? おめでとう、これで見習いではなく、正式な聖女ですわね」
「ナターシャ……」
そう、ステラは聖女のテストに合格した。
合格者の中では最下位で、下級聖女の扱いになるが、それでも聖女にはなれたのだ。
ナターシャの祝福の言葉に、ステラは嬉しいながらも複雑な心境になった。
「……ありがとう。だけど、ナターシャが遠くに行っちゃうなんて、すごく寂しい……ティルバイトに行っても、また会ったりできる?」
「行く……のではなく追放ですので、勝手にティルバイトを出たら命に関わりますわ」
ナターシャの台詞に言葉を失うステラ。
ナターシャはそんな彼女の両手を優しく握りしめた。
「ステラのことはずっと忘れませんわ、どうかお元気で」
「……ナターシャ……」
ナターシャにとっても、ステラと離れるのは少し寂しい気もするが……
――これでセシリアとジオバールから物理的に距離を置けますのよバンザーーーイ!!
……劣等生仲間と別れる寂しさよりも、嫌な奴らとおさらばできる喜びの方が遥かに勝っているのだった。