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8-6

 アリストとともに転移の空間に呑まれたナターシャは、一瞬視界が漆黒の輝きに包まれた。

 真っ暗なのに眩しいという、奇妙な矛盾を抱えた刹那、ナターシャは強く目を閉じて、アリストの手を握りしめる。

 そしてアリストに従い、ほんの二、三歩足を進めた時だった。

 瞼を閉じていてもわかるほど、周りが明るくなっていることに気づく。

 アリストの動きが止まったので、ナターシャもその場で足を止めると、ゆっくりと瞼を持ち上げてゆく。

 するとナターシャの前に立つアリストの肩越しに、活き活きとした緑の葉っぱを蓄えた木が見えた。背丈はアリストよりも頭一つ分高く、まん丸い形に整えられている。

 ナターシャがもしやと思い辺りを見回してみると、同じような形容をした木々が並んでいるのがわかる。

 そして後ろを振り向く体勢になった時、前方に大きな長四角の建物が見えた。

 金を基調とした三階建てのそれは横に長く、どこまでも続いているように感じるほど広い。

 遠巻きにも見て取れる豪奢な作りと、権力を主張する広大な敷地。

 ナターシャは魔力テストの時に一度来たきりだったが、忘れるはずもない。この印象的な建造物は、間違いなく王宮だ。

 どうやらここは王宮に続く庭園の一角で、木々に隠れた奥の場所に転移してきたらしい。

 ここなら人目につかないので、転移魔術を使っているところを誰かに目撃される心配もないだろう。

 アリストの魔術の精度はどこまで高いのか、転移魔術を使えるだけもすごいのに、本当にとんでもない才能だ。


「はあぁ……本当に便利な能力ですわね」


 アリストの技術に感服しながらため息混じりに呟くナターシャ。

 だが、ふとある異変に気づくと、急いで視線を王宮からアリストに戻した。

 アリストが震えている。

 ナターシャと手を繋いだまま、小刻みに、いや、わりと強く、いやいや、ものすごく激しく。

 ナターシャが声をかけようとする間に、どんどんと激しさを増して、もはや震えているというよりも踊っているようにさえ見えた。


「あ、アリスト!? どうしましたの!?」


 咄嗟に繋いだ手を離したナターシャは、アリストの前に回り込んでその顔を確認する。

 地獄の表情だ。白い肌は真っ青だし、唇はカッサカサで色を失っている。

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