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ナターシャの台詞に、アリストは少しヒヤッとする。
まずいかな、バレたかな、勝手にそんなことするなんて嫌がられるかも、キモがられるかもと、不安になったのだ。
「……な、なにか、気づいた?」
「……そうですわね、なんといいますか、こう、アリストくさい感じがしますわ」
言い方がアレだが、ナターシャの感覚は正しかった。
実はこのドレスには、アリストの魔力が込められていたのだから。
アリストはナターシャの思わぬ表現にキョトンとした。
「……ボク、くさい……」
ポツリ、ナターシャの言ったことをリピートするアリスト。
先ほどまで不安になっていたのに、だんだん可笑しくなってきた。
それはじわじわと胸から込み上げ、やがてアリストはプッと小さく吹き出してしまった。
「そ、そうだね、確かに、そ、そうかも」
瞼と瞼を完全にくっつけて、少し白い歯を覗かせる。
アリストの笑顔を前にしたナターシャは、雷に打たれたような心地がした。
なぜって? ナターシャがティルバイトに来て約二週間、アリストのここまでハッキリした笑顔を見たのは初めてだったからだ。
「あ、アリストっ……あなた、笑えるんですのね!?」
「え? ぼ、ボク、笑ってた?」
「ええ、なんかこう、可愛らしい、無邪気な子供のような笑みでしたわよ!」
「か、かわ、こど……??」
「もう一度笑って見せてくださいませ!!」
「えっ、えええっ……!?」
興奮したナターシャにグイグイ迫られ、タジタジ状態のアリスト。
もう一度笑ってと言われても、完全に無意識だったので再現することができない。
そんな二人のやり取りを見ていた外野たち……特にガネットは羨望の目をしていた。
「す、すごく楽しそうっ……あたしも式典行きたい! お兄様とお姉様を見てたい!」
「気持ちはわかりますがダメです」
「あーーーーん!!」
パトリックに止められ頭を抱えるガネット。
アリストとナターシャのダブル推しとなったガネットに、相変わらずアリストオンリー推しのパトリック。
しかし、ナターシャが来てからというもの、アリストの違った一面を見る機会が増えたため、パトリックとしても、ナターシャにはここに永住していただきたい所存であった。