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「どうですか、素晴らしいでしょう! やはり私の見立ては間違っていなかった! 暗闇の中に隠しきれない輝きを放つ銀の光はまさに団長そのもの!」
アリストの傍らでペラペラと話し始めるパトリック。実はこの衣装はパトリックがこだわり抜いて選んだ品だった。
なんでもいいと言うアリストに変わって、パトリックが店に行った、その時ガネットも同行し、ナターシャのアクセサリーも一緒に選んできたのだ。
その後もパトリックは自分の目利きと、アリストの着こなしぶりに対する賞賛をペチャクチャしゃべっているが。
そんな言葉が耳に入らないほど、ナターシャはアリストに夢中になっていた。
閉まったドアの前に立つアリストは、肩を窄ませ視線を下げている。
いつものゆったりしたローブと違いカッチリした服装なので、なかなか猫背もできないし、フードで顔を隠すこともできず、とにかく落ち着かなかった。
しかしその不安と緊張を帯びた表情は、麗しい見目に憂いという儚さを加味する要素となる。
ナターシャは一歩前に出てアリストに近づくと、その顔を一心に見つめた。
髪や瞳と同じく色素の薄いまつ毛、長く豊かなそれが被さった銀灰の瞳に、陶器のような肌と、薄い身体に高い背丈。
「……まるで壁画から飛び出した大天使さながらの麗しさですわね、素敵よアリスト、本当によくお似合いだわ」
ナターシャのストレートな褒め言葉が聞こえたアリストは、ピクリと反応を示してゆっくりと顔を上げる。
すると、徐々に正面に立ったナターシャの姿が目に入る。
やがてその全容が視界に収まると、アリストは穏やかな銀灰の瞳を大きくして、息をするのも忘れた。
ナターシャの瞳を思わせる色合いのドレスに、アップした髪型と耳元を飾るイヤリング。
いつもと違う装いに、ナターシャの新たな一面を見たアリストは、美しすぎて目が眩みそうだった。
なによりも自分が選んだドレスが、ナターシャの身体を包んでいると思うと、アリストはわーっ! と騒ぎたくなるくらい嬉しくなる。
「あ……な、な、なたなたなたなた」
だが、実際は暴れるどころか、緊張して舌も上手く回らない。
いつも以上に噛みそうになるアリストに、まずいと思ったナターシャは両手を伸ばすと、彼の両肩に優しく置いた。
ナターシャに触れられたアリストは、一瞬ビクッとして身体を強張らせるが。
「アリスト、大丈夫ですわよ、落ち着いて」
ナターシャの優しい声にアリストの視界が広がる。
そばで目を合わせても、怖いと思わない。緊張するけど安心するような、不思議な感覚がアリストを包んだ。