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だが、今はナターシャに時間を削いでいる場合ではない。
今世ではまだセシリアの願いは叶っていないからだ。
「そんなことよりも、なにかいい考えはあるの? 私にこの国をプレゼントしてくれると約束したわよね……?」
懇願するようにじっと見つめてくるセシリアに、ジオバールは一拍置いてから頷いた。
「ああ、もちろんだ。だが、そうするためにはロッドベリルをなんとかするしかない、あいつらがいる限り、この国を好きにすることはできないからな」
ソリスティリア王国を乗っ取ること。それこそが二人を繋ぐ共通の野望であった。
「今すぐ乗り込んで潰すことはできないの?」
「そうしてやりたいのは山々だが、アリストの野郎は化け物だ、なんの考えもなしに突っ込むのは得策じゃない。だからアリストがティルバイトを留守にする機会を伺っている。あいつさえいなければチョロいだろうからな」
アリストの強さを目の当たりにしているジオバールは、アリストと団員が一緒にいるところに突撃するのは無謀だと考えていた。
だが、アリストと団員が分離すれば、力は半減するだろう。ゆえに、その隙をついて襲撃するのが吉だと踏んだ。
このジオバールの反応に、セシリアは内心ガッカリした。
化け物だのなんだの言って、結局そのアリストとやらより弱いだけではないかと。
そう思うと同時に、自身の聡さに感服する。
やはり、ジオバールだけに賭けるのは心許ない、保険として、他の男たちも誘惑しておいてよかったと。
「狂人で化け物だなんて……そんな人間がこの国にいると考えただけで悍ましいわ」
「ああ、まさにその通りだ、好機を察知したら早急に排除する。俺たちの未来のために、セシリアも力を貸してくれるな?」
「ええ、もちろんよ」
二人は手と手を取り合い、真剣に見つめ合う。
表面上は信頼に満ちた男女関係のようだが。
――俺があの化け物に勝つためには、大きな魔力が必要だ。そのために利用させてもらうぞ、セシリア。
――さあ、私のジオ、今世ではどこまで私に尽くしてくれるのかしら? 前世の記憶が戻らないことを祈っているわ。
互いに化かし合いの騙し合い、腹の中は真っ黒だ。ある意味似た者同士のお似合いカップルかもしれない。
「ありがとう、セシリア、さすがは俺の姫君だ」
「うふふ、ならばあなたは私の王子様ね、愛してるわジオバール、あなただけよ」
前世、欲で結びついた二人は、今世でも同じ道をゆく。辿り着く先は、果たして――。