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「安心しろ、運がよければ助かる」
「ああ、そんなっ、運任せだなんて……ただでさえ運がないナターシャなのに……!」
「うわぁ、悲惨……」
「あたしたちじゃなくてよかったね」
ジオバールにセシリア、他の聖女たち。
みんなナターシャの不安を煽るように、わざと怖がらせるような言葉を使っている。
追放と聞いたので、辺境の地に飛ばされるとは思っていたが、まさか噂のティルバイトだっとは、ナターシャも意外だった。
ならず者の集まり? 魔物や魔獣がたくさん? 今までの聖女がみんな泣いて逃げ出すような問題の地……?
そんなの、そんなの…………
もっっっのすごく面白そうではなくて――!?
ナターシャは恐怖するどころか、胸がはちきれんばかりの期待に満ち溢れていた。
見た目は聖女らしくなったものの、やはり中身は豪傑の悪役令嬢。
まだ見ぬ悪名高き新天地を、この目で見てみたい好奇心が止まらないのだ。
――いけませんわ、このままでは、喜びが漏れてしまいます……!
嬉しすぎるあまり、上手く表情を作ることが難しく、焦ったナターシャは最終手段、逃げるを選んだ。
勢いよく後ろを振り返り、抱きついていたセシリアを振りきると、ナターシャは顔を覆いながら修道院に走っていく。
周りにはショックのあまり逃げ出しているようにしか見えないので、違和感はない。
――ああ、早く自分の部屋に逃げ込んで、エアー高笑いをしたい……!
そんなことを考えながら修道院の広間を通り過ぎようとした時だった。
「ナターシャ!」
突然声をかけられ、ナターシャはその場に立ち止まる。
そして顔を覆ったままの状態で、高笑いしたい気持ちを現実に向けていった。
ナターシャのそばに近づく一つの気配。
ナターシャは声を聞いた時点で、それが誰なのかわかっていた。
「……ステラ」
ナターシャが振り向いた先には、赤茶色の長髪を二つに束ね分け、三つ編みにした女性が立っていた。背が低く痩せっぽちで、黒く円な瞳はどこか自信なさげに見える。
ステラ・ロロ・ルピンスキー。
年齢はナターシャと同じ、十九歳。彼女だけではなく、今年魔力テストを受けた聖女見習いは、全員十九歳だ。
ソリスティリア王国では、二十歳が成人となる。だから十九でテストを受け、二十になる頃には聖女として働くようになっているのだ。
ステラは静かにナターシャに歩み寄ると、涙をいっぱい溜めた目で見つめてきた。