第1章:豪傑の悪役令嬢、転生する-1
「ナターシャ・リアン・ブランビスク……あなたを王都から追放します」
十五歳になる少年王、テレス・オットー・ヴァレンタインは、壇上の王座についたまま、ナターシャに命じた。
その隣に立ったのは、テレスの護衛である、聖騎士ジオバール・ハルト・サンタクルス。
彼は氷よりも冷たい目でナターシャを見下ろしている。
今日は国を左右する重要なテスト……魔力の測定日。
そのため、普段は修道院暮らしのナターシャたちも王宮に入り、王たちの前で魔力のテストを受ける。
その結果がこうだ。
すべての魔力の測定において、ナターシャは最低値を記録。しかも、今までにないほどひどい数値を叩き出した。
王宮の広間に集まった王族、貴族はナターシャを蔑んだ目で見、他の聖女たちは、憐れみの視線を向ける。
そんな中、ナターシャに歩み寄る一人の人物。
「ああ……なんてかわいそうなの、ナターシャ、あんなにも魔法の勉強をがんばっていたのに……!」
涙ぐみながらそう言うのは、セシリア・プルミエ・キュリオール。ナターシャと同じ修道院暮らしの聖女。
彼女はくるりと後ろを振り返ると、高い位置にいるテレスに、手と手を合わせて訴える。
「国王陛下、追放だなんてあんまりでございます。ナターシャがどれだけ努力をしてきたか、親友の私が一番よくわかっております」
ナターシャのためにテレスに直訴するセシリアは、まさに聖女そのもの。
それを見た周りの者たちは、さすがセシリア殿、慈悲深いお方だ……などなど、彼女への称賛を口にする。
それに対し無反応なテレスに、ジオバールがコソッとなにかを耳打ちした。
すると、テレスは改めて口を開く。
「王都の聖女……大聖女には、セシリア・プルミエ・キュリオールを任命します」
その瞬間、辺りは盛大な拍手に包まれた。
そしてセシリアはナターシャに駆け寄ると、潤んだ瞳で彼女の顔を覗き込んだ。
「ナターシャ、ごめんなさい、私ばかりが才能に恵まれてしまって……あなたが無能なのはあなたのせいじゃないわ、努力だけではどうしようもないこともあるのに……本当に世の中って不公平よねぇ」
セシリアはそう言うと、僅かに口角に上げる。
ナターシャはその場に膝から崩れ落ちると、王宮の冷たい床に突っ伏した。