関東浄忍衆連絡会二月度定例会議 議事録
日時: 昭和38年3月9日
場所: 怨災対策室上野支部 地下第三会議室
議事録作成: 二等巫術師 佐倉春香
出席者: 対策室長、卜占部門長、一等巫術師各位、浄忍御三家代表、他
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1. 旧「皇宮御庭番」再編と米国との折衝について
【結論】
CIAを通して米国と接触、旧「皇宮御庭番」再編に向けた交渉を開始する。
【詳細】
怨災被害より陛下をお守りするためには、旧江戸城郭に敷かれた巫術結界だけでは万全とは言い難い。そのため、終戦後に進駐軍によって解体された「皇宮御庭番」の再編は、日本の国民統合の象徴を維持するための喫緊の課題である。
しかし、米国を始めとする西側諸国は、浄忍衆を軍事利用可能な実力組織と見なしており、再軍備への懸念から合意形成は困難を極めている。
1960年の、米国大統領来日の際に協議を予定していたが、安保闘争の混乱に伴い延期。以後、米国中央情報局(CIA)との接触を試みるべく内閣と協議を行っている。
進駐軍の統治時代を通じ、CIAは怨魔災害の危険性を把握しており、米国内で同様の事態が発生した場合に備え、そのメカニズムの解明と対策を求めている。
これに際し、我々の怨災対策のノウハウを提供することと引き換えに、皇宮御庭番の再編について、本国との交渉について便宜を図るよう提案する。
現在、木隠家が折衝を行っており、近日中に改良型の雛罌粟靈信を用いて、怨災対策室とCIAのホットラインが開通予定。
【留意事項】
巫力や怨の不安定性については、CIAとは詳細に共有し、兵器としての有効性について否定的な見解を示すこと。
特に、怨魔の軍事転用は、その制御は戦前の本邦においても達成されなかった極めて危険な試みであり、米国全土が日本と同様の怨災多発地域になる懸念を強く示すこと。
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2. 首都警邏システムの改革
【結論】
テクノロジーを活用した過重怨圧探知法を確立し、首都警邏を効率化する。
【詳細】
巫術師の感応増幅と脳波グラフから座標を特定するレーダー技術を現在開発中である。
巫力の顕現時や怨霊の視認時に、活性化する脳の部位に装着型の電極を当てる仕組みを採用している、実際の運用としては、複数のビルヂングの屋上に設置したアンテナ状の装置に巫術師が巫力を供給し、過重怨圧の力場を測量する。
表向きには脳波測定のための医療機器としての開発となっており、産学の連携で研究が進んでいる。今後は、ブラウン管への出力などに対応する形で、即時的な状況更新と確認を可能とすることを目標にする。
現在、「巫術儀式を施した郵便物(『不幸の手紙』と呼称)」を活用した模擬標的を市井に流通させ、その探知を行う実験を実施中。既に一定の成功を収めており、実用化に向けた精度向上と、さらなる検証を進めている。
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3. 「緋の巫女」の捜索
【結論】
緋の巫女の捜索を一時断念し、怨災対策従事者の増産を急務とする。
【詳細】
戦災による混乱の中、消息を絶った「緋の巫女」の家系である和戸一族の捜索は、既に18年が経過しており、当時の手がかりも遺失した現在では発見も困難。これ以上、捜索に人員を割くことは、首都の防衛体制に穴を開けることになる。
捜索部門は今月をもって解散し、守護任務を怠った風間一族には、これまでの各種特権を剥奪する降格措置を適用する。
以後、風間家は他の浄忍家系と同様の扱いとし、首都近郊の防衛任務に従事することとする。
緋巫女の遁法については不明点が多く、全容は解明されていないが、その存在を抑止力として怨鬼の活動が制限されていた実態を鑑みて、今後50年は彼らの失踪を秘匿するものとする。特に、守護を担当していた風間一族と、当主「和戸壱陽」との親交が深かった筆﨑一族に関しては、家門の者に機密厳守を徹底させること。
これより、緋巫女失踪に際して発生の見込まれる、怨災の拡大、特に東京の下水道網における蠱毒形成の阻止は、浄忍衆の喫緊の課題であり、これに対処する怨災対策の従事者の絶対数を増やす必要がある。
現在、血因遁法の発現が可能な明松朱弘をはじめとする、各浄忍家系から選出された優秀な男忍15名について、火走家、水切家、木隠家の御三家及び、守谷家、仙堂家、氷室家、犬飼家へ派遣し、生殖活動と優秀な後継者の育成を急ぐ。
【留意事項】
現在、市井に移り連絡の途絶した者については、その捜索と並行し「あらやま医院」にて採精、保管されているものを活用し、人工授精を行う。
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4. 丙種以上の怨魔討伐についての報告
【結論】
今月、都内において討伐された丙種以上の怨魔の数は41件。
地下より発生した怨魔は特殊な形質を獲得しており、分類の整理が必要。
また、調査中の危険怨魔について、その複数が消息を絶っており、原因究明を急ぐ。
【詳細】
東京の下水道網では、無数の怨魔が生存競争を行っており、地上で発生する怨魔とは異なる、特殊な形質を獲得した怨魔が複数確認されている。
現在、硬質外殻、傀儡使役、自己複製、簡易遁法の使用などといった事例が確認されており、これらの怨魔が甲種怨魔に成長、あるいは捕食された場合、怨鬼の危険性が飛躍的に向上することが懸念される。
また、昨年から都内東部にて報告されていた「鰐の怨魔」(コードネーム:クロコダイル)について、浄忍で編成した討伐部隊が現着した時点で、既に現場からは姿を消していた。
現場には複数の小型の「鰐の怨魔」が存在していたが、報告されていた「丙種」相当の怨魔は確認されていない。怨魔の体躯と通路の構造上、他の地点への移動は不可能と思われるため、何者かによって殺されたとみるのが順当であると思われる。
以下が、本件において考えられる状況となる。
・怨魔同士の縄張り争いによる共食い
・怨鬼による能力獲得のための捕食
・浄忍衆の把握していない、在野の浄忍による討伐
・反社会的な忍術家系「影道」の者との衝突
なお、同様に消息を絶った危険度の高い怨魔について、現在、怨災対策室は偽情報の拡散による攪乱と、原因究明を行っている。
以下は、その通称とコードネーム、詳細を記した一覧である。
・下水道のワニ(クロコダイル:前述の通り)
・口裂け女(リッパー:被害多数、詳細不明)
・弾丸婆(ターボ:同時期に消息を断った駄菓子屋店主「来馬千代」と同定)
・テケテケ(ノーフット:目撃情報の途絶えた傷痍軍人「鹿嶋礼児」と同定)
・こっくりさん(キータイプ:雛罌粟靈信を利用した人攫い?発信途絶え詳細不明)
【留意事項】
一部の現場には焼け跡が確認されており、火遁や熱遁を用いる浄忍か怨鬼の存在が想定される。現在、怨災対策室の把握している在野の浄忍に該当する者はいないので、怨鬼の可能性を考慮し、各家門において注意を促されたし。
また、昨今の研究では理論上「過重怨圧の揺らぎが確認できない怨霊、怨魔」の存在が示唆されている。これは、肉体を構成する霊力が怨霊とは異なり、巫力そのものに近いものであるためと推測される。
現時点では発生こそ確認されていないが、同性質を持った怨鬼が市井に潜伏した際、その発見は非常に困難であるため、何かしらの対策を講じることが求められる。
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5. 浄忍の教育体制について
【結論】
「特務課程」の創設に際し、門森学園女子高等学校をモデル校として準備中。
会議時間が押しているので、本件は概要の共有に留め、詳細は来月の会議に持ち越しとする。
【詳細】
今後の浄忍の増産に際して、各家門での教育には限界があるので、教育制度として浄忍の育成を行う体勢を整えている。
現在、守谷一族が理事を務める門森学園について、そのモデル校として特務学級の創設を準備中。
美濃浄忍衆名門である石川一族の協力の下、一般生徒の到達困難な地下空間に、修練場や遁法研究室、各種教室を建設中。特務学級の生徒募集は3年後を予定している。
教育の有効性が確認され次第、地方都市にも同様のカリキュラムを持つ高校を開校予定。
【留意事項】
浄忍候補生を集める関係上、秘匿性には細心の注意を払う必要がある。
また、同学内で巫術師候補となる学生を発掘し、忘却措置や認識阻害などの巫術について、特別指導を行うカリキュラムも策定中。次回の定例会議にて詳細な報告を行う。
― 以上 ―
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