#11 震天動地
鹿嶋は、半狂乱になりながら、自身の半生を語った。その言葉は、全て聞き取れたわけではない。支離滅裂な箇所もあった。
だが、俺たちには伝わって来た。鹿嶋の無念が。この世の地獄にあっても、怨鬼となることを拒絶し、人として生きようと藻掻いた、彼の人生の軌跡が。
その悲痛な叫びに、俺は、ただ言葉を失うことしかできなかった。
「北か、南か……俺たちの違いはそれだけ……!!なのに、お前は、まだ人間であり続けてる……ッ!!」
鹿嶋は鉾田さんに向かって叫ぶ。彼の表情に浮かんでいるものは……憐れみ以上に「罪悪感」だった。
――運命。それ以外に、この残酷な現実を表現する言葉が浮かばない。その僅かな巡り会わせが異なれば、現在の彼らの立ち位置は逆だっただろう。
「こんな、こんなことってあるかよ……ッ!!俺は……俺はッ!!何のために産まれてきたんだッ!!」
瞬間、鹿嶋は自転車のフレームを切り落とした。鉄の棒を掴み、そこに銃剣を押し当てた。俺は、その姿を見て我に返る。
「鹿嶋奧伝『天地返し』――!!」
振動。金属の接触。共鳴。――「音」だ!!
……俺は、直感的に耳を塞いだ。ヤツの沌法が発した音を、俺の耳が拾う前に。
瞬間、巨大な金属音が、俺の身体を強く震わせた。
「……っ!?」
鉾田さんがその場に崩れ落ちた。旧友の壮絶な経験に心を揺さぶられていた彼は、奴の出した「音」を防ぐのが遅れた。
鉾田さんはその場で倒れ込む。我に返った彼は、再び起き上がろうとした――が、彼はすぐにまた転倒した。彼の身体は、完全に平衡感覚を喪失していた。
――人間の内耳に存在する、平衡感覚を司る「三半規管」。先の鹿嶋の術による高音は、共振でこの器官を直接刺激し、麻痺させる技だった。
鹿嶋は隙を逃さず、鉾田さんへの距離を詰め、馬乗りになる。そして銃剣を喉元に突き立てる――!!
鉾田さんは「拳甲」を発動し、奴の銃剣を握って止めた。しかし体勢は鹿嶋が上……彼の銃剣は、鉾田さんの喉を貫くべく、自身の全体重を銃剣に乗せた。じわじわと、刃先が彼の喉元に近づいていく。
「俺は……俺はもう、人間じゃない……」
鹿嶋の声は、細く震えていた。怒声を張り上げ覆い隠していた彼の絶望は、もはや剥き出しになっていた。ただ、救いを求めるように、助けを求めるように――
「もう、俺は怨鬼であるしか、無いんだ。やっと再会できたお前が、まだ人であることに、憎しみと、羨望しか湧かない……待ち望んでいた、喜ぶべき日のはずなのに……」
鉾田さんの頬に、鹿嶋の涙が落ちる。銃剣は、鹿嶋の沌法とは関係なく、ただ大きく震えていた。それは、鬼の力への拘泥か、人間としての迷いの表れか。
「もう、こんな気持ち、たくさんだ。死んでくれ……鉾田」
鉾田さんがただ殺されそうになっている状況を、俺は黙って見ていることは出来なかった。鉾田さんに馬乗りになった鹿嶋に跳びかかり、俺は奴の左ひじに向けて蹴りを放つ。
「下がっていろ、小僧」
鹿島の左腕に、空気振動の障壁が展開される――
――鹿嶋の左腕は焼け落ちた。俺の蹴りは「通った」。ヤツの「音の障壁」に干渉されることなく、その肘に俺の熱を込めた蹴りは直撃した。
「…………ッ!?」
鹿嶋は「解せない」といった表情で困惑している。右手ではなおも力強く銃剣を握りながらも、自身の欠損した左腕を茫然と眺めていた。
その隙を逃さず、鉾田さんは膝を曲げ、奴の腹に蹴りを入れた。鹿嶋は、その衝撃を受け、後方に転がっていく。
鹿嶋はそのまま上半身を延ばして跳躍し、銃剣を構えながら立ち上がった。
解放された鉾田さんは立ち上がろうとする。だが、まだまっすぐ歩くことも出来そうにない……まだ、戦線復帰は無理だ。
俺が……俺がやるしかない。
「……鹿嶋 礼児」
「小僧……っ」
鹿嶋は俺を睨み付ける。「邪魔をするな」と、そう、目が語り掛けてきた。
……確かに、俺は部外者だ。ロクに戦地を知らない、戦後を生きてきたガキに過ぎない。それでも、俺は彼に言葉をかけることを、止めることは出来なかった。
「……化け物扱いしてすまなかったな、『鹿嶋さん』」
鹿嶋は、俺の言葉を聞き、ぴたりと動きを止めた。
「あんたは……『人間』だよ。仲間を、誇りを、後生大事に想い続けて……、戦って、苦しんで、壊れるまでもがき続けた。正真正銘の人間だ」
俺は小太刀を鞘に収め、居合の構えを取る。
この男は、過ちを犯した。それでも、過去を悔やみ、正しい道を進もうと足掻き続けた、一人の人間だ。そこに敬意を失ったら、俺も、俺自身を、人間として誇ることは出来ない。
「だから、俺は……あんたのためなら『人殺し』になっても構わない。戦士としての誇りをかけた最期の闘い……俺が引き受ける」
鹿嶋は今、その注意を鉾田さんから俺に移した。俺を……戦うべき「敵」として認めた。
……俺は武人でもなんでもない。忍者だ。どんな手段を使っても敵を殺すことが、その本分だ。
そうであっても、俺は鹿嶋に、彼の命に、敬意を払いたかった。
鹿嶋に、その人生を無駄だと思わせたくなかった。鹿嶋を絶望の中から救い上げ、人間として死なせてやりたかった。
「構えろ、鹿嶋さん。アンタの戦争……俺が終わらせる」
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