#9 竹馬の友
第二章⑨
「剋因遁法 『灼』――」
「剋因沌法 『貫』――」
「剋因沌法 『鐸』――」
三者三様の超常の力が、巫力を持って結ばれる。
現時点での状況を整理しよう。
俺の「灼」は巫力を熱に変える力。明松流の体術を踏襲し、小太刀と徒手空拳に熱を加えた戦いをする。
鹿嶋の「鐸」は振動を操る力。ヤツの持つ銃剣に振動を加えて切れ味を増したり、空気の振動を共鳴させ障壁を作る。格闘は軍隊仕込みだ。
鉾田さんの「貫」は……現時点では不明だ。だが、俺たちと距離がある中で、奴の銃剣を叩き落したのは、遠隔攻撃手段を持っているからだろう。そして、その身のこなしは鹿嶋のそれに近く、軍隊格闘を基盤にしていると思われる。
――鉾田さんは、鹿嶋との距離を一足に詰めた。遠距離支援を主体にしていると思っていた俺にとっては、意外な動き出しだった。
鹿嶋は、てけてけと音を鳴らしながら、振動する銃剣で鉾田さんの左わき腹を狙う。彼はそこに右掌を差し込み、銃剣を受け止める。
「鉾田流 刃受け『拳甲』」
瞬間、彼の掌に触れた銃剣は動きを止めた。さながら岩に棒を押し付けたように、鹿嶋がいくら力を込めても、その銃剣は彼の掌を傷つけることが出来ていない。
鉾田さんは、左手を握りしめ、頭の右後ろに構えた。そして、すかさずヤツの顔面目掛け、裏拳を打ち込んだ。
……空中で、彼の腕は止まる。鹿嶋の「振動」による術の不可侵領域「寂壁」。奴が敵の攻撃を視認できる範囲では、その攻撃が奴に通ることはない。
「鉾田流 空拳『徹抜き』」
打撃音とともに、鹿嶋の身体は横に吹き飛んだ。……攻撃は、通っていた。
鹿嶋の術により、空中で止まった鉾田さんの拳。そこから放たれた一閃の光。それが、鹿嶋の展開した障壁をすり抜け、奴の顔面に彼の打撃を直撃させた。
俺はそこに追い打ちをかけるべく、赤熱した貫き手をヤツの心臓をめがけて打ち込む。しかし、すんでの所でヤツは俺の攻撃を視認し、これを空気の壁で防いだ。鹿嶋の反撃の蹴りを小太刀で受け止め、後方に飛び退き衝撃を逃がす。
俺と入れ替わりに前に出た鉾田さんが、ヤツの脇腹めがけて力強い回し蹴りを放つ。ヤツは続けざまに振動の壁を作り出す。……が、またしても、鉾田さんの足から放たれた衝撃は、振動の壁を素通りし、奴に直撃した。
ヤツの身体は、間に挟まった放置自転車を押し潰し、ぶつかった石壁に大きくひびを入れる。やがて、壁はガラガラと音を立て崩れ落ちた。
「……衝撃の……『貫通』ですか?」
俺の問いかけに、鉾田さんは一瞬こちらに視線を送り、頷いた。
「流石に元浄忍……良い目だね。その通りだよ。私の沌法は『そこにある物体』を無視し、その向こう側に衝撃を打ち込むことが出来る」
「……ヤツの銃剣を止めたのは?」
「私の打撃を『接触面』に限定して、直接銃剣に打ち込み、振動の調子を狂わせた。一点集中だな」
……流石は戦場帰りと言うべきか。沌法の練度が尋常じゃない。昨日今日で遁法が完成した俺と違い、使える力をどう運用するか、彼の身体が覚えている、ということか。
加えて、勝手知ったる関係であるというのも大きいのだろう。ヤツの能力に対し、的確にそれを無力化する攻撃の一手を打っている。
「……怨魔以外に向けるべき力ではない。人に……奴にこれを使うことなど、考えたくはなかったよ」
……鹿嶋は瓦礫をはねのけ、立ち上がる。負傷はしているが、ヤツの身体も怨鬼の頑強性を持っている。これぐらいで死にはしない、ということだろう。
だが、何かがおかしい。ヤツの眼つきが変わった。薬物で錯乱していたときとも、逆上し殺意に溢れていたときとも違う。その目に、「人の光」が戻ったというべきか。
「…………ほこ、田?……鉾田……なのか?」
「……っ!!」
鹿嶋は呼んだ。鉾田店長の名を。呼ばれた彼の表情も一瞬緩む。
「…………鹿嶋っ!?お前、正気を……」
「……待ってください」
俺は、思わず鹿嶋に歩み寄ろうとする鉾田さんを制止した。
「冷静に……過重怨圧の揺らぎは消えていない……ヤツは、今の鹿嶋は『怨魔』です」
「………………」
「旧友を思う気持ちはお察しします。ですが、ヤツは、昔の『鹿嶋 礼児』ではない」
「……ああ、そうだったな」
鉾田さんはヤツの脚を見る。明らかに、奴の体格に合わない細い脚。
ニュースによると、「鳴嶋さん」の下半身は欠損していた。状況から考え、奴が「捕食した」のだろう。それで、自身の肉体に、取り込んだ。
「ヤツは鳴嶋さんを殺した。……その落とし前は、つけさせねばならん」
「………………」
「『旧友』としての私に出来ることも、それぐらいだろう」
気丈な表情を見せる彼の姿は、悲痛そのものだった。かつての旧友が、共に地獄を潜り抜けた戦友の命を奪ったという事実。
……「察した」などと言っても、俺は結局第三者に過ぎない。彼の痛みをどれほど理解できるものか。……だが、彼を死なせるわけにはいかない。俺の物言いの無神経さなど二の次だ。
「……鉾田ァ…………なんで、なんで…………」
ヤツは頭をかきむしり、悲しみとも、絶望ともつかぬ表情で、鉾田さんを見つめる。鉾田さんは目元を伏せ、構えを取り続けた。
旧友への情を殺しても、人の道を全うするという覚悟。彼の立ち振る舞いからはそれが感じられた。
「……なんで、お前は、怨鬼にならずに済んでるんだよォ……鉾田ァッッッ!!」
大粒の涙を零しながら、ヤツは叫んだ。正に鬼哭と言うにふさわしいその嘆きに、俺たちは圧倒され、凍り付いた。
鬼に「ならずに済んだ」――。鹿嶋の言葉の意味するのは、人間性の発露。鬼になり切れない、人間の心。
ヤツの瞳には、紛れもなく「人間」の持つ「光」が……そして、底知れぬ絶望を感じさせる「闇」が、静かに宿っていた。
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