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百鬼の忍 ~戦後を終えた日のもとで~  作者: CarasOhmi
【第二章】憂国精鬼のラプソディ
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プロローグ ダンガンババア

 おれは、怨魔……いや、怨鬼だ。

 浄忍どもの作った等級では最上位とされる「甲種」に位置付けられているらしい。


 普段は駄菓子屋の好々婆として、採算無視のもんじゃ焼きをガキどもに食わせてやっている。

 だが、その実態は正体不明の人喰いの鬼。そのようなこと、露にも思うまい。


 やんちゃに遊ぶ近所のガキどもが、じわじわと育っていくのを肴に、一杯やるのが、おれの楽しみだ。

 ああ、生意気なガキどもよ。このまますくすく育って、上質な(ミソ)を持つ、美味しい大人になっておくれよ……ヒヒッ。


剋因沌法(こくいんとんぽう) 『(ひらめき)』――」


 さて、今日も食事の時間だ。

 おれの脚力は韋駄天のそれだ。どんな浄忍もおれには追い付けない。


 おや、ちょうどいい所に車が通りかかったね。

 黒い車体の、なかなか高級感のある車だ。それにオープンカーとは、屋根を壊す手間が省けて助かるよ。


 じゃあ、いこうか。

 すっとろい路面電車(トロリーバス)などはもちろん、外車だろうと、国産のスポーツカーだろうと、おれの足からは逃げられない。


 おれこそが、東京最速の怨鬼。誰もおれからは逃げられないんだよ。


 瞬間、小さな光と、一本の線が、おれの視界で明滅した。


* * *


 ――俺の足元に、老婆の首が転がる。

 俺と綾夏の右手に握られたピアノ線は、水平にぴんと張り、緑色の体液を滴らせていた。


「手伝ってもらって助かったよ、綾夏」

「……ほとんど遁法使わずに、対応出来ちゃいましたね」

「一応、鋼線が溶けない程度に熱は与えたんだが……距離もあったし、そっちまでは伝わって行かなかったんだろうな」

「手袋もしてましたしね」


 胴体から切り離されたそれは、言葉にならない罵声を俺に浴びせかける。

 聞き取れるのは「畜生が」「食い殺してやる」「●●●●」「×××」「■■■■■■」などと、おおよそ悪意しか感じられない下品な言葉ばかりだ。

 ……善良な鬼じゃなかったみたいで一安心だぜ。


「ところで、さっきのまぶしい光、何だったんですか?」

「ああ、新製品の懐中電灯(フラッシュライト)だよ。会社の倉庫の試供品から拝借してな。合図にはちょうどいいだろう?」

 俺が手元のスイッチをぱちぱちと切り替えるたび、電灯の光はぼんやりと明滅する。


「これから電池が改善されて、長時間の点灯も出来るようになるかも、ってさ。停電時も心強い一家に一台の優れものだ」

「……『会社の』って、それは横領では……?」

「なに、自社の扱う商品の性能を知る事だって、立派な営業の勉強さ」


 俺は、老婆の怨鬼の首を持ち上げた。

「……ところで綾夏。この前の口裂け女の時は聞かなかったけど、こういう怨鬼も、怨魔と同じように食ったりするのか?」

「えっと……その、人の姿で言葉を喋る相手は、心理的に抵抗が強くて……」

 困った顔の綾夏を見て、俺は笑った。

「……そうか。いや、それでいいんだ。その気持ち、これからも大事にしてくれ」


「てめぇらッッッッ!!」

 怨鬼は、俺達の会話に割り込むように、恨めしい表情で食って掛かった。


「なんだ、なんなんだ、てめぇらッ!!浄忍か!?浄忍が、おれを、おれを……この『弾丸婆(だんがんばば)』を殺しに来たのかッッッッ!?」

 俺は苦笑を漏らした。弾丸ババア……「鉄砲玉」って、行ったきり帰ってこないじゃねえか。縁起でもない自称だな。


「俺は、浄忍じゃねぇよ」

 俺は、生首を真上に放り投げた。やがて、動きを止めて自由落下を始める婆の首。

 それをめがけて、俺は巫力を込めて赤熱した拳を叩き込んだ。ヤツの首は瞬く間に炎上し、地に落ちる間もなく跡形もなく消滅した。


「義に厚いだけの、ただの家電営業さ。成仏しろよ『ターボババア』」


 残された婆の肉体が、黒い靄となり、霧散していく。……決着もターボってのは、少しばかり同情するぜ。

 しかし、弾丸か……今開発が進んでるっていう高速鉄道も、昔は「弾丸列車」とか呼ばれてたらしいな。


「……そういえば、東海道に高速鉄道が開業するって話、再来年だったっけか?四時間で京都まで行けるんだよな」

「ああ、うちのお客さんもその話してましたよ。楽しみですよねぇ」

「……俺、就職してから東京から出た事ねぇんだよな……。たまには休暇取って、京都でも行ってみるかな」

「ふふ、ハネムーンのお誘いですか?」

「ははっ、おのぼりのガキの引率なんて、御免だね」





 ――――――――【第二章:憂国精鬼のラプソディ】――――――――





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