第8章 — 旅の影
棺の重みが地面をきしませた。
鎖は通った跡に不規則な溝を刻んでいく。
彼女は彼の後ろを歩いた。
並んででもなく、前にでもなく。
その歩みは奇妙だった。
まるで時間ではなく、「記憶」によって歩幅を測っているかのように。
「なぜ、それを運んでいるのですか?」
彼女は棺を見つめながら尋ねた。
彼は答えなかった。
目を合わせることすらしなかった。
ただ、右手の剣の柄をわずかに強く握った。
「重くないのですか?
あなたは一度も休もうとしない…」
沈黙。
鉄と土の擦れる音だけが答えだった。
夜になると、彼は無言で焚き火を起こした。
その動きは機械のように無感情で、温もりを求めてではなく、ただの「手順」のようだった。
彼女は彼の目を見つめた。
左目は人間のもの。
しかし右目は…
「瞳の中に…鎖…」
小さく彼女はつぶやいた。
まるで何かを封じ込めるように。
彼は一瞬だけ彼女を見返した。
威圧でも怒りでもなかった。
それ以上聞かないでくれという、無言の懇願だった。
彼女はその視線を尊重した。
だが、好奇心は消えなかった。
彼は食べなかった。
ただ、炎を見つめていた。
そして時折、彼の口から意味のない音が漏れた。
名前のない言葉。彼のものでない声。
「…あなた、声が聞こえるのですね?」
答えはなかった。
鎖がかすかに鳴った。
翌朝、彼女は彼よりも先に目を覚ました。
静かに棺へ近づいた。
触れるつもりはなかった。
ただ…「感じたかった」のだ。
木材のひび割れから滲み出る重苦しい気配。
叫びではなく——囁くような痛み。
「あなたは…悪い人じゃない。」
小さく彼女は言った。
「でも、外に出ない傷を抱えてる…」
彼は静かに彼女の背後に立っていた。
何も言わずに——ただ、見守っていた。
「行き場はないけど…一人で歩きたくないんです。」
彼女は地面を見つめながら言った。
彼はわずかにうなずいた。
それはほんの小さな仕草だった。
だが、それで十分だった。