第61章 — 革帯と沈黙
グラニスへ向かう旅は数週間にわたり続いた。
村の慰めをあとにし、踏み出すたびに世界の瓦礫へ深く沈んでいった。
およそ三十日、雨も泥も雷鳴も、破れた天幕の下で縮こまる夜も経験した。だが、それでも冒険者たちに見せられたものは、想像をはるかに超えていた。
伝説の鍛冶の都、ドワーフの世界グラニスは、今や灰色に染まる廃墟となっていた。
国境近くの村は、まるで時間に凍りついた亡霊のようだった。崩れた住まい、汚れた布に包まれた亡骸、そして絶望の腐臭が風に乗って鼻を突いた。
侵略軍は影のように行進し、かろうじて残る者たちのベルを奪い去っていた。子供はもう泣かない。涙を流す力すらないのだ。
馬車は静かに進んだ。砂利の上を転がる車輪の音は、祈るように静かな母親のうめきを覆った。十五歳にも満たない我が子を抱えた母親たち。
だが、八十五名からなる冒険者たちは助けられなかった。力の問題ではない。命令の下で行動するしかなかった。
その夜、彼らは乾いた丘の上に野営した。遠くにかすかな村の灯りがともり、その光は消えそうな虫の火のようだった。
アリアとサエルは小さな焚き火の傍らに腰を下ろした。誰も言葉を発しなかった。木がはぜる音すら、その日に見たものを悼んでいるかのようだった。
その時、小さな影が近づいてきた。
頼りなげなその姿は、わずかに震えていた。
灰色の布服をまとったドワーフの少女。目は深く沈み、顔には生気がなかった。
「お願いします…少しだけでも、食べ物を…」
声は風に消えそうで、期待がない言葉だった。
アリアは迷わず、乾いたパンを二つそっと差し出した。少女は手を震わせながらそれを受け取り、ぎこちなく口にした。だが、すぐにまた顔を見せた。何かを言いたげに、でも言えずに立ち尽くす。
「革の帯…ありませんか…?」
か細い声が夜に聞こえた。
アリアは首を振った。身につけていないと答えようとしていたが、視線の隅でサエルがゆっくり立ち上がるのを見た。
彼は一言も口にせず、古びた革の帯を腰から外し、少女に差し出した。少女はかしこく礼をし、闇の中へと静かに消えていった。
やがて、他にも四人の小さく痩せた影が暗がりから現れた。幼い戦災孤児たちだった。
彼らは少女の帰りを待っていた。そしてパンと革帯を分けあい、布を裂いて財布を作るかもしれないほど切羽詰まっていた。
その後、ためらいなく結びついた革を裂き、小さな口で噛み締めはじめた。
革は肉ではない。それでも、飢えを拭うために必死にかみ砕かれていた。
「空腹は鳴くより、騙すほうがましだ」
アリアは手で口元を隠した。涙が頬を伝う。息が詰まるようだった。
どうして世界はこんなにも冷酷になったのか。
子どもが革を食べるほどに追い込まれるなど——
虫けらよりも低く扱われるような光景に、この命が耐えている。
アリアはサエルを見つめた。あの瞳の奥に、もしかしたら答えがあるかもしれないと思った。
「…あの子たちを、連れ出す方法は…あるの?」
声が震えた。
サエルは静かに少女たちを見つめたまま言った。
その目は焚き火に照らされて赤く揺れていた。
「…この戦争が終わったら」
するともう一度、沈黙が二人を包んだ。
夜の闇の向こうで、
飢えた小さな子どもたちが、
放棄された世界の残りかすを噛み続けていた。
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