第57章 — 小さな戦い、確かな歩み
任務の目的地は、町から少し離れた畑のそばにあった。
日が高く昇る頃、アリアとサエルはその場所に到着した。畑には誰もおらず、静寂の中に風の音と草の揺れる音だけが響いていた。
「……気をつけて。何かが近くにいる。」
アリアが囁くように言うと、サエルは頷いて視線を遠くへ送った。
数分後、茂みの奥から数匹の野犬が姿を現した。毛並みは荒れ、目は飢えた獣そのものだった。
「やるしかないわね。」
アリアが杖を構え、サエルは腰の剣に手をかけた。
戦いは一瞬だった。
アリアが光の魔法で目くらましをかけると、サエルは鋭い動きで野犬の間を駆け抜け、脅かすように一閃を放った。
殺さずに、しかし二度と近づかぬように。
「逃げたわ。」
アリアは息を整えながら辺りを見回した。もう、野犬の気配はなかった。
任務は成功。誰も傷つかず、無事に終えることができた。
だが、それでもアリアの胸には、静かなざわめきが残っていた。
「ねえ、あなたは……この先も、こんなふうに歩いていくの?」
サエルは彼女の方を見たが、何も答えなかった。ただ、少しだけ優しい目をしていた。
「私……あなたの隣にいて、本当にいいのかな。」
その問いにも、やはり返事はなかった。
けれどアリアは、それで十分だと感じた。
沈黙の中にある温もり。
それは、言葉よりも深く、彼女の心に沁みていた。
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