第56章 — 最初の依頼
ギルドへの登録が無事に終わり、二人は掲示板の前に立っていた。
壁に貼られた依頼書の数は思ったよりも多く、掃除や配送、護衛、討伐まで様々な種類があった。
「うーん……どれが良いかしらね。」
アリアは腕を組みながら、一つ一つの依頼内容を読み取っていく。
高額報酬の依頼もあるが、当然それに見合う危険もつきまとう。
彼女が選んだのは、田畑の周辺で野犬を追い払うという比較的簡単な依頼だった。
報酬は少ないが、初めての任務としては丁度良い。
「これにしよう。無理のない範囲で、ちゃんと報酬もあるし。」
サエルは何も言わずに頷いた。
アリアが依頼書を持ってカウンターに戻ると、受付のティナがまたあの元気な声で迎えてくれる。
「おっ♪ 初依頼ですね〜! はいはい、この依頼はですね、町の外れの農家さんからのお願いです。最近、野犬が作物を荒らすみたいで……」
彼女は地図を取り出し、現場の位置や注意点を丁寧に説明してくれた。
「危なくなったらすぐに引き返してくださいね。無理は禁物ですよ〜!」
アリアは頷きながら書類にサインをし、依頼を正式に受け取った。
サエルは終始無言のままだったが、その静けさがかえって安心感を与えていた。
ギルドを出て、外の風を受けながらアリアは呟いた。
「なんだか……普通のことをしてるって感じ。久しぶりだわ。」
彼の隣で歩く、その平凡で穏やかな瞬間。
それは、彼女にとって何よりも貴重に思えた。
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