第55章 — 小さな街と騒がしい受付嬢
町に到着したのは、日が傾き始めた頃だった。
その町は、アリアがかつて馴染んでいた大都市とは違い、どこか素朴で静かな空気をまとっていた。
舗装されていない道、木造の建物、小さな商店がぽつぽつと並ぶ中で、一つだけ賑わいを見せる建物があった。
冒険者ギルド。
経済の中心とは言い難いが、この町ではギルドが商取引の一部を担い、人々の生活を支えているようだった。
「ここが、その……ギルドね。」
アリアが呟くと、サエルは何も言わずに建物の扉を押し開けた。
中は予想以上に活気があった。
掲示板には数多くの依頼書が貼られ、数人の冒険者たちが出入りしている。
カウンターの奥には、一人の女性がいた。
彼女は明るい金髪にツインテール、そして眩しいほどの笑顔でこちらに手を振ってきた。
「いらっしゃいませーっ! 初めての方ですね? 私はティナ、このギルドの受付嬢ですっ!」
そのエネルギッシュな声に、アリアは少しだけ面食らった。
(ちょっと……ネジが何本か緩んでるんじゃない?)
そんな第一印象を受けつつも、彼女の説明を静かに聞いた。
ティナはギルドの仕組みについて手際よく説明した。
「ギルドでは、依頼の仲介、報酬の支払い、そして記録の管理を行っています。ただし、依頼の危険度は様々ですので、自分の実力に見合ったものだけを選んでくださいね。ギルドは、冒険者の安全までは保証してませんので〜!」
言葉の端々に無邪気さが滲んでいたが、説明は明確だった。
ただ、彼女の視線がサエルに向いたとき――
「えっと……その……お連れの方、なんだかすごく……ミステリアスですねぇ〜」
アリアは咄嗟に笑顔を作りながら、適当な話をでっち上げた。
「彼はちょっと、昔から目立つのが苦手で。ほら、顔を隠してるのも、恥ずかしがり屋なだけなんです。」
「あははっ! そうなんですね! なるほどなるほど〜!」
ティナはあっさりと納得した様子で、大きく頷いた。
その明るさが、嘘すらも軽やかに流してしまう。
アリアは小さく安堵の息をついた。
こうして、彼らはギルドに登録を済ませ、第一歩を踏み出すことになった。
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