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第54章 — 提案

焚き火の火が小さく揺れていた。


風が冷たく、空には雲ひとつなかった。


アリアは静かに、しかし確かな口調で言った。


「このまま当てもなく歩き続けるのは……もう限界だと思う。」


彼女の目には、疲れと決意が交錯していた。


「私たち、資金が必要よ。食料を買うお金、装備を整える費用……時にはちゃんとした宿で休むことも。毎晩、森や洞窟、廃墟で寝るなんて、さすがに続かない。」


サエルは彼女の言葉にすぐには返事をしなかった。


その目は、ゆっくりと炎を見つめ続けていた。


そして、数秒後、彼は小さく頷いた。


「……どうしたい。」


「ギルドに登録するのが一番現実的だと思うの。報酬のある依頼をこなして、日々の生活費を稼ぐ。危険な任務ばかりじゃないはずだし、私たちならきっと上手くやれる。」


その提案に、彼は何も異論を唱えなかった。

むしろ、彼女が少し笑顔を見せたことに、目を細めた。


「次の町で登録しよう。できるだけ早く。」


アリアの表情が、ほっとしたように緩んだ。


それを見ていたサエルは、再び頷いた。


彼にとっては重要ではないことだったかもしれない。


だが、アリアにとっては、確かな前進だった。


そして、その小さな一歩が、彼の心にも静かに何かを灯していた。



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